Ultrasonic Team (T. Yanagisawa, Hokkaido Univ,)    

研究日誌
2011-11/14-18 Dresden, Germany

Nov 21, 2011

<a href='http://www.rheinmetall-defence.com/index.php?lang=2&fid=3487'>Capacitor Bank</a> and me

ドレスデンはドイツとチェコの国境近く(プラハまで電車2時間)のところに位置する旧東ドイツの大都市の一つです。強王アウグストⅡ世が栄華を極めた中世のザクセン王国の首都だったのですが、第二次大戦の英米軍による空襲では焼け野原になってしまいました。現在はいくつかの主要な建築物が復旧されて、当時の街並を取り戻しつつあるそうです。
 郊外にはKGB時代のプーチンさんが勤務していたと噂される秘密警察のアジトや、森鴎外さんが足繁く通ったといわれるビアホールなどがあります。今回我々が訪れたのは、中心街からバスで30分ほどのところのRossendorfという森の中にひっそりとたたずむヘルムホルツ・ゼントラム研究所です。(その前身はナチスの秘密研究所だったに違いありません!)

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研究日誌
2011-9/26-30「高野山」

Sep 30, 2011

高野山で行なわれた「第2回重い電子若手秋の学校」に参加してきました。世界遺産でもある密教の総本山に籠って物理のお勉強です。現在NHKで放映している大河ドラマの主人公「江姫」を祀っている「天徳院」という宿坊に泊まり、朝6時半のお務めから始まり、昼は講師による講義、精進料理を食べた後、夜も「ナイトセッション」と題して、雑魚寝の部屋に酒を持ちよって(住職の許可はとってあります)、深夜まで物理談義。さらに、私の部屋には酒が強い面子が揃っていた所為なのかどうなのかわかりませんが、続けて「ミッドナイトセッション」が行なわれ、毎晩明け方までトコトン物理の話をしました(本当)。大変貴重な経験でしたが、慢性的な二日酔いと寝不足で、4日目に私が講師を担当した時はへろへろの状態。そんなこんなで、9月の出張ラッシュも終わり。気がつけば9月に私が札幌に居たのはたったの3日間でした。

重い電子系若手秋の学校'11テキスト
「超音波からみた多極子・ラットリング」

Sep 30, 2011

平成23年9月26日〜30日に高野山大学で開催された「重い電子系若手秋の学校」のために用意された テキストを配布します。 柳澤は29日午後の講義を担当しました。

PDF版テキストはこちらからダウンロードできます。(7.3 MB)


「超音波からみた多極子・ラットリング」  柳澤達也

  1. はじめに
  2. 超音波実験の測定手法
  3.   2.1 パルス法
      2.2 位相比較法
  4. 歪みと弾性定数,四極子感受率
  5.   3.1 歪みと弾性エネルギー
      3.2 四極子感受率
      3.3 立方晶系に於けるCe3+, Sm3+(J = 5/2), Pr3+, U4+(J = 4)の四極子感受率
      3.4 近藤効果を取り入れた四極子感受率(横波超音波)の一例(CXcal-excel)
      3.5 多極子秩序における弾性異常
      3.6 重い電子系に対する超音波実験
  6. 緩和の現象論
  7.   4.1 複素弾性率
      4.2 音響フォノンと音速の関係(位相速度と群速度について蛇足)

  8. 超音波からみたラットリング
  9.   5.1「ラットリング」という言葉の定義

      5.2 3-20-6系クラスレート化合物
      5.3 1-4-12系充填スクッテルダイト化合物
      5.4 これまでに超音波測定から得られたオフセンターラットリングの傍証
  10. 磁場に鈍感な重い電子系SmOs4Sb12の弾性応答
  11.   6.1 結晶場効果
      6.2 超音波分散
      6.3 熱活性エネルギーと他の物理量の比較


おわりに
参考文献
(正誤表 ※講義時に配布された製本版テキスト(A4版/310頁)の修正。)



本テキストの6割〜7割は基礎的な内容に、残りを研究の新展開に割き、基礎から新展開への繋がりを意識して議論してあります。一度、専門家による閲読を通っておりますが、間違いを見つけられた場合は柳澤迄ご連絡いただければ幸いです。
尚、本テキストは雑誌「物性研究」2012年1月号にも掲載されます。


Topics: 超音波からみた多極子・ラットリング
1. はじめに

Sep 29, 2011
本稿は、新学術領域研究(研究領域提案型)「重い電子系の形成と秩序化」が主催した「重い電子系若手秋の学校’11」のテキストブックをHTML化したものです。物性研究における超音波実験の役割を簡単にレビューします。


第1章 はじめに


わたしたちは物性を調べるとき,物質に様々な外場をかけ,それに対する物質の持つ様々な自由度の応答を観測する.例えば磁性を調べる場合,最も簡単な方法は物質に磁場を加え,物質中のスピン自由度の応答をその周りに巻いたコイル等で観測する方法である.それでは,わたしたちが扱う強相関電子系に於いて「超音波測定」とはどのような外場を加え,何の応答を観測できるのだろうか?その質問に大雑把に答えるとしたら

「超音波測定は物質中に歪み場を加え,電気四極子の応答を観測する手法である.」

と言えるだろう.

超音波は弾性波として固体中を伝搬する.局所的にその弾性波をみると,結晶中に然るべき対称性を持った歪み場が作り出されている.電子系はその歪み場を,ポテンシャルの変化として感じる.もし固体が完全結晶(※1) で周期的な格子を持つ場合,そのポテンシャルは結晶対称性によって周期函数で表される.超音波には縦波と横波が存在するため,様々な対称性の歪み場を加えることができる.超音波計測とは,いわば系のポテンシャルを外から直接揺さぶり,電子系(ならびに格子系)の応答を四極子感受率(あるいは歪み感受率)として観測する手法であり,磁気モーメントの応答に対応する帯磁率,エントロピーに対応する比熱とともに物性物理学における有効な測定手段の一つである.

そのため,超音波を用いて得られる「弾性定数」という基本的物理量は固体物理学の教科書には必ずと言っていいほど登場する.しかしながら,「磁性」や「誘電性」を観測する実験手法に比べ,超音波実験とそこから得られる物理には,正直なところ馴染みが少ないという学生諸君が多いのではなかろうか.確かにキッテル先生のIntroduction to Solid State Physicsでは一時期,弾性定数の章が割愛されていたし(※2),物性物理学の門を叩いた学生は自分の測定した比熱や磁化を手っ取り早く計算したいので,固体物理の教科書の「弾性」の章は読み飛ばしている可能性が高い.

そこで,本稿では学生の皆さんに「超音波で固体の電子状態を観る」ことにもっと馴染んでもらうべく,超音波で得られる物理量の持つ意味と,それを重い電子系や多極子秩序,ラットリング等を示す系に適用したときに得られるデータの解釈の仕方について,実験屋の視点から基礎的な解説をし,最後に最近著者が行っている充填スクッテルダイト化合物のラットリングの研究について,超音波実験から得られた知見を紹介する.

本稿が学会や論文で超音波の実験結果をみる際の手助けになれば幸いである.

(第二章に続く)

注釈
※1  人類が手にすることができる最も「完全」に近い結晶はシリコンの単結晶である.しかし最近,極低温弾性定数測定によって1モル当り1014個程度の単原子空孔の存在が明らかになった. [1]
※2 7th Edition以降で復活


Topics: 超音波からみた多極子・ラットリング
2. 超音波実験の測定手法

Sep 29, 2011
本稿は、新学術領域研究(研究領域提案型)「重い電子系の形成と秩序化」が主催した「重い電子系若手秋の学校’11」のテキストブックをHTML化したものです。

第2章 超音波実験の測定手法


2.1 パルス法


先ず,超音波実験の測定手法と測定の勘所を至極簡単に述べよう.超音波測定では,固体中を伝搬する弾性波の音速と吸収を測定する.パルス法と呼ばれる方法は固体の音速を測定する最もポピュラーな方法である.良く研磨された測定試料面に各種の接着剤によりトランスデューサを接着し,トランスデューサの共振周波数に合った連続波発信器を用意する.そこから出力された電気信号をゲートに通して充分に短い幅(200-500 [ns])に切り,ドライブ・パルスとしてトランスデューサに入力する.トランスデューサによってパルス信号は超音波パルスに変換され,試料中を弾性波(歪み波)として伝搬する.試料の両端面で反射を繰り返した超音波パルスはトランスデューサにより再度電気信号に変換され,検出器へ送られる.オシロスコープでその信号の時間変化を監視すると,図1のような「超音波パルスエコー」が得られる.「エコー」とは山びこ現象で次々に聞こえる「こだま」そのものである.理想的なパルスエコーならばその振幅は exp(-βt)に比例して減衰する.t [s]は入射信号からの遅延時間である.

超音波が伝搬する経路長を,試料端で反射したエコーが届く時間間隔で割れば,超音波の音速$v$の絶対値が得られる.βは単位長さ当たりの超音波吸収係数α [dB m-1]、音速v [m s-1]との間にβ = α/vの関係を持つ.ここで,ドライブ・パルスはほぼ矩形のエンベロープを持っているが,電気音響変換の過程で歪みを生じたり、トランスデューサを試料に貼付ける為の接着剤による影響でエンベロープのエッジが丸みを帯びてくる。特に電気機械結合定数の高いLiNbO3を圧電素子として用いた場合,エコー信号の立ち上がりを正確に知ることが難しくなるため,正確な絶対値の測定には直接試料表面に圧電結晶をスパッタリングする方法や圧電高分子トランスデューサをスピンコート法で塗布するなどの工夫が必要である.いずれにしても音速の絶対値の測定精度には限界があり,うまく測定しても数%の誤差が生じてしまう.


Fig. 01 超音波エコーの観測例:URu2Si2の横波弾性定数C44モードの超音波エコーのスナップ写真.
(厚さ100 μmのLiNbO3ウエーハをトランスデューサに用い,3倍高調波の105 MHzで観測した.)



Fig. 02 位相比較法で扱う信号のタイムチャート(概念図)



Fig. 03 超音波位相比較法のブロックダイアグラム


 

2.2 位相比較法


量子系の状態を反映したより微小な音速の変化を検出するためには,エコー信号を検出するのではなく,位相信号を用いることで高い分解能を達成することができる.これは位相比較法と呼ばれる手法である.位相比較法については様々なところで解説があるので[2,3] ,その詳細については省くが,ここでの勘所は音速の変化を基準信号からの遅延(位相差)として観測し(図2),位相差をゼロ検出し,先程の発信器に負帰還をかけることで,音速の相対変化を信号発生器の周波数の相対変化に読み替えるところにある.即ち,原理的には測定周波数が高ければ高いほど,分解能が向上することになる.また,ゼロ検出法を用いることで,測定系における非線形性の影響を受けにくく,Δ v/v 〜 10-7のきわめて高い分解能の測定が可能となる.この高い分解能は,特にSi単結晶内に存在する単原子空孔の量子状態の測定[4]や,音響ドハース効果などの極微小な量子振動の検出に有効である.我々が用いている測定系のブロックダイアグラムを図3に示す.これとは別に周波数を固定して生の位相差信号をデジタルストレージに保存し,そこから音速の相対変化と吸収係数を同時に算出する方法もある[5].この方法は若干分解能で劣るものの,積分器による負帰還を行わないため,音速の変化が著しい場合やパルス磁場下など短い時定数で測定を行う必要がある場合に有効である.

(第3章に続く)

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