Ultrasonic Team (T. Yanagisawa, Hokkaido Univ,)    
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The Focus of Our Research

  The focus of our research is the solid-state physics. Well, what is solid-state?

Since all matter on Earth is compounded from elements, and the element is consisted with nuclei and electrons, it is to say that every property of matter is essentially determined by its electronic properties. Electron has two degrees of freedoms; one is ' Spin ' as magnetic degrees of freedom and the other one is ' Atomic Orbital ' as charge degrees of freedom. Our method, 'Ultrasound', can probe the charge degrees of freedom in particular, which is hard to be detected by magnetic measurements in general. We are using such a unique technique to investigate properties of crystalline materials .

  Then, what is actually detected by ultrasonic measurements? Since ultrasonic wave can easily propagate in matters not only insulators but also metals, as you know, ultrasound is applied to medical instruments and defect detection for industrial products. On the other hand, we are using a different method. We investigate electric quadrupole and/or local charge fluctuation, such as 'rattling', by measuring the elastic stiffness constant precisely using ultrasound with wavelength of micro-meters. We study inter-metallic compounds and semiconductors, which will be able to applied for future electric devices. Hokkaido University has facilities for very low temperature measurements; we plan to perform precise ultrasonic measurement down to the vicinity of absolute zero temperature by using liquid helium cryostats in order to detect several quantum phenomena such as superconductivity, magnetism, heavy fermion behavior.

  We would like to hope to promote academic exchange and joint research with different research fields. Please feel free to contact us!

  March 8, 2008

  Tatsuya YANAGISAWA


Contents:

>理学のフロントランナー(北大理学部 研究者紹介
> The Focus of Our Research「研究内容」-日本語版
>>「実験手法」 -Method- (Japanese Only)
> Diary(「研究日誌」-日本語版(更新停滞中))

Topics:


>「超音波からみた多極子・ラットリング」
重い電子系若手秋の学校’11テキスト(Japanese Only)
>「カゴ状構造を持つ物質群に於けるラットリング探索の 超音波からの新アプローチ」
(Japanese Only)

>「カゴ状化合物のラットリングとトンネリング」
-Rattling and Tunneling in the Clathrate Compounds-
(Japanese Only)

Key Papers:

> Highlights
[1] Acoustic signature of the single-site quadrupolar Kondo effect: finding the last missing piece of the puzzle

[2] Evidence of a New Current-Induced Magnetoelectric Effect in a Toroidal Magnetic Ordered State of UNi4B

[3] Search for multipolar instability in URu2Si2 studied by ultrasonic measurements under pulsed magnetic field

> Filled-Skutterudites
[1] A New Technique for High Frequency and High Pressure Ultrasonic Measurements

[2] Crystalline Electric Field and Kondo Effect in SmOs4Sb12

[3] Magnetic-Field-Independent Ultrasonic Dispersions due to Rattling in the Magnetically Robust Heavy Fermion System SmOs4Sb12
[4] Ultrasonic investigation of the off-center rattling in the filled skutterudite compound NdOs4Sb12
[5] Thermodynamic and transport studies of the ferromagnetic filled skutterudite compound PrFe4As12
[6] Ultrasonic investigation of field-dependent ordered phases in the filled skutterudite compound PrOs4As12



Topics: 超音波からみた多極子・ラットリング
3. 歪みと弾性定数,四極子感受率
3-1 歪みと弾性エネルギー

Sep 29, 2011
本稿は、新学術領域研究(研究領域提案型)「重い電子系の形成と秩序化」が主催した「重い電子系若手秋の学校’11」のテキストブックをHTML化したものです。

第3章  歪みと弾性定数,四極子感受率


物理的に意味があるのは音速ではなく,単位体積当たりに蓄えられる弾性エネルギーを表す「弾性定数」である.実験からは音速とC = ρ v2の関係で弾性定数(SI系では[J m-3],CGS単位系では[erg cm-3]の次元)が得られる.物質の密度ρが一定であると仮定した時,弾性定数の絶対値は音速の絶対値によって決まり,ヤーン・テラーエネルギーや四極子相互作用の結合定数を見積もる際に重要になる.一方,弾性定数の単位を圧力の単位[Pa]や[dyn/cm2]で表す場合もある.こちらは圧力効果を論じる場合や圧縮率(バルクモジュラス)との比較を行う際に有効かもしれない .

本章ではまず局在性が強い(混成効果が弱い)f 電子系について四極子感受率の定式化を行う.結論を先に言ってしまうと,それは量子力学の二次摂動を用いた,電気双極子と誘電率,あるいは磁気双極子と帯磁率の関係式と全く同じである.超音波が作る歪み場と結合するのは電気四極子であるから,波動函数に適用する演算子のランクが双極子から1つだけ上がり,物理量がベクトルからテンソルに変わる以外は何ら特別なことは無い.だから一度でも感受率の計算をやったことのある方は読み飛ばしてもらって構わない.


3.1 歪みと弾性エネルギー


物質は外場に対して何らかの応答を示す.例えば,磁場H に対して磁束密度B,電場E に対して電束密度D,応力Tに対して歪みS が発現する.それらの関係を表1に示す.

Table 1 物理テンソル・特性テンソル・外場のトライアドと,応答する多極子


一般に固体物理学で結晶が物理テンソル I の場の下にある場合,それによる観測量eと結晶の性質に由来する(結晶の異方性によって簡略化された)特性テンソルdの間には以下の関係がある.

e_i=d_{ij}I_j
(1)

ここで,添え字i, j (=1,2,3)は座標成分を表し,添え字の数は階数(ランク)と呼ぶ.
1階ランクのテンソル(即ちベクトル)同士を結びつける物理量dijは2階ランクのテンソルであり,マトリクス型式で表される.

¥pmatrix{e_1¥cr e_2¥cr e_3¥cr}=¥pmatrix{d_{11}&d_{12}&d_{13}¥cr d_{21}&d_{22}&d_{23}¥cr d_{31}&d_{32}&d_{33}¥cr}¥pmatrix{I_1¥cr I_2¥cr I_3¥cr}
(2)
さて,超音波による音速測定から得られる物理量は表1の弾性(スティフネス)定数である.これは物質の応力に対する歪みにくさ,即ち「かたさ」に対応する量で,歪みSも応力Tも2階ランクの極性テンソルであるから,これらを繋ぐ特性テンソルの弾性定数は4階ランクの極性テンソルである.

T_{ij}=C_{ijkl}S_{kl}
(3)
応力Tijはi面に働くj方向の力をあらわす.本稿では今後,誘電率は登場しないので,普段私たちが論文で用いている表記に変更し,歪みをεkl,応力をσijと再定義すると
¥sigma_{ij}=C_{ijkl}¥epsilon_{kl}
(4)
テンソル量Cijklは対称で,その要素は添字の順番に依らないから,以下のようなVoigtの表記で書き換えることができる.
11 → 1,  22 → 2, 33 → 3, 23,(32) → 4, 31(13) → 5, 12(21) → 6.

マトリクス形式で式(4)を表してみよう.

¥pmatrix{¥sigma_1¥cr ¥sigma_2¥cr ¥sigma_3¥cr¥sigma_4¥cr ¥sigma_5¥cr ¥sigma_6¥cr}=¥pmatrix{C_{11}&C_{12}&C_{13}&C_{14}&C_{15}&C_{16}¥cr  &C_{22}&C_{23}&C_{24}&C_{25}&C_{26}¥cr  & &C_{33}&C_{34}&C_{35}&C_{36}¥cr  & & &C_{44}&C_{45}&C_{46}¥cr  & & & &C_{55}&C_{56}¥cr  & & & & &C_{66}¥cr}¥pmatrix{¥epsilon_1¥cr ¥epsilon_2¥cr ¥epsilon_3¥cr¥epsilon_4¥cr ¥epsilon_5¥cr ¥epsilon_6¥cr}
(5)
ここで,空白部分は対称要素Cij=Cjiであるため省略した.さらに,物体に働く応力は釣り合っており,回転モーメントは無いとすると,応力も歪みも対称となり,もともと34 = 81個あった4階テンソルの要素の数が21個に簡約化される.さらに結晶がある対称操作に対して不変であるとすると,特性テンソルは簡約化される.独立な弾性定数の要素は結晶の対称性に応じて減り,最も対称性の高い立方対称では独立な弾性定数はC11, C12, C44のたった3個になる.ここでは群論の詳細については割愛するが,三斜晶から立方晶までの結晶対称性において対称操作によって残る独立な弾性定数と,その基底函数をまとめたものを表2に示す.


Table 2. 様々な結晶系における独立な弾性定数 [6]



Table 3. 立方晶系における超音波の伝搬・変位方向と弾性定数の関係


下では簡単のため,結晶構造が立方晶の場合について考える.一般に,歪みは次のような対称テンソルで定義される.

¥epsilon_{ij}=¥biggl( ¥frac{¥partial u_j}{¥partial i}+ ¥frac{¥partial u_i}{¥partial j}¥biggr)=¥epsilon_{ji}
(6)
ここでuiは変位ベクトルであり,歪みは無次元量であることがわかる.上式で定義された歪みは,x, y, zの二次多項式と同じ変換をする(i,j=1,2,3 → x,y,zと置き直すと解り易い)から,点群Oの既約表現と同じ変換をする対称歪みεΓを求めることができる.表3に立方晶系における超音波の伝搬・変位方向と,誘起される歪み,観測される弾性定数の関係を示した.立方晶系の弾性エネルギーはフックの法則により,弾性定数と対称化された歪みを用いて以下のように書ける.
E_{elas.}&=&¥frac{1}{2}¥sum_{ijkl}C_{ijkl}¥epsilon_{ij}¥epsilon_{kl}¥nonumber¥¥
  E_{elas.}^{cubic}&=&¥frac{1}{2}C_{11}(¥epsilon_{xx}^2+¥epsilon_{yy}^2+¥epsilon_{zz}^2)+C_{12}(¥epsilon_{yy}¥epsilon_{xx}+¥epsilon_{xx}¥epsilon_{zz}+¥epsilon_{zz}¥epsilon_{yy})+2C_{44}(¥epsilon_{yz}^2+¥epsilon_{zx}^2+¥epsilon_{xy}^2)¥nonumber¥¥
  &=&¥frac{1}{2}C_B¥epsilon_{B}^2+¥frac{C_{11}-C_{12}}{2}(¥epsilon_u^2+¥epsilon_v^2)+2C_{44}(¥epsilon_{yz}^2+¥epsilon_{zx}^2+¥epsilon_{xy}^2)
(7)

ここでCB = (C11+2C12)/3はバルクモジュラス で結晶対称性を保持するΓ1 対称性の体積歪みεB = εxxyyzzに対応し図4に示すような単極子・電気十六極子と結合する.(C11-C12)/2, C44はそれぞれΓ3, Γ5対称性の対称歪みに対する四極子の応答に対応する.磁場中の横波超音波には歪みに加えて,格子の回転が弾性エネルギーに寄与する.そのため超音波の伝搬方向と磁場方向の関係に依っては,弾性エネルギーに差が生じる.本稿では割愛する.

(第3章3.2節に続く)


3-4 近藤効果を取り入れた四極子感受率(横波超音波)の一例(CXcal-excel)

Sep 29, 2011
本稿は、新学術領域研究(研究領域提案型)「重い電子系の形成と秩序化」が主催した「重い電子系若手秋の学校’11」のテキストブックをHTML化したものです。

第3章 超音波実験の測定手法

 

3.4 近藤効果を取り入れた四極子感受率(横波超音波)の一例(CXcal-excel)


結晶場と近藤効果の共存系における各種物理量の計算プログラム``CXcal-excel''が,酒井治先生によって配布されている[23].このプログラムは磁性不純物の結晶場を考慮したアンダーソン・ハミルトニアンから出発し,Non Crossing Approximation(NCA)と呼ばれる自己無撞着摂動論を用いて立方対称結晶場にあるCe3+ (J = 5/2)の1イオン感受率の温度依存の数値データとグラフを簡便に与えてくれる.

図11に結晶場レベルがΓ8(0 K)-Γ7(19 K)で,近藤温度TKを5 Kと10 Kに設定したときの四極子感受率-χΓ3と-χΓ5の温度依存性を示す.横軸は温度の対数で表している.実線は前節で計算したNCA計算を用いない1イオン感受率である.図12には結晶場レベルがΓ7(0 K)-Γ8(38 K)のときの同様の結果を示す.この後の解説のために申し添えると,結晶場分裂幅をこれらの値にした理由は,最終章で紹介するSmOs4Sb12の四極子応答を解釈するためである.Γ7基底モデルの結晶場分裂幅はΓ8基底モデルの丁度2倍の値に設定しているので,Γ8基底モデルの温度軸を2倍にスケールすれば同じ分裂幅の感受率を比較できる.結晶場分裂幅Δに対してTKが半分くらいになるとΓ8基底モデルではキュリー項によるソフト化が急激に抑えられ,逆にΓ7基底モデルでは高温領域でソフト化が増大する.例えばΓ5対称性の四極子感受率-χΓ5はTK = 5-10 K程度を仮定した場合. Γ7とΓ8基底状態のいずれかを定性的には区別できなくなっていることがわかる.(図11,12下図の破線を比較してみよう.).


図11 Γ8(0 K)-Γ7(19 K)の結晶場状態を持つCe3+ J = 5/2の4f 電子系に対する近藤効果を考慮した場合と考慮しない場合の四極子感受率の比較



図12 Γ7(0 K)-Γ8(38 K)の結晶場状態を持つCe3+ J = 5/2の4f 電子系に対する近藤効果を考慮した場合と考慮しない場合の四極子感受率の比較



(第3章3.5節に続く)


3-2 四極子感受率

Sep 29, 2011
本稿は、新学術領域研究(研究領域提案型)「重い電子系の形成と秩序化」が主催した「重い電子系若手秋の学校’11」のテキストブックをHTML化したものです。

第3章  歪みと弾性定数,四極子感受率

 

3.2 四極子感受率


弾性定数の結晶場効果による温度変化は一般的に四極子感受率として理解できる.四極子感受率は歪み場を摂動として系に加えた場合の四極子モーメントの応答である.これは外部磁場に対する磁気モーメントの応答としての帯磁率と単純に類推できる.以下でその一般式を導く.

結晶中に入射された超音波は結晶格子をわずかに歪ませる.電子状態が四極子を持っている場合,四極子-歪み相互作用を媒介に歪みは結晶場ポテンシャルVCEFに変調を与えて電子系と結合する.そのエネルギー変化は極めて小さな摂動として取り扱うことができる.

V_{¥rm CEF}=V_{¥rm CEF}^0+¥sum_{¥Gamma ¥gamma}¥frac{¥partial V_{¥rm CEF}}{¥partial ¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}}¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}
(8)

VCEF0は無摂動状態の結晶場ポテンシャル,Γγは点群の既約表現の基底を表し,εΓγは対称歪みである.四極子-歪み相互作用のハミルトニアンHQSはVCEFを歪みの1次まで展開し,第2項の展開係数をウィグナー・エッカートの定理より等価演算子で置き換えると次のように書ける,

H_{¥rm QS}=-¥sum_i¥sum_{¥Gamma ¥gamma}g_¥Gamma O_{¥Gamma ¥gamma}^{(i)}¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}
(9)

gΓは四極子-歪み相互作用の結合定数,OΓγは局在f電子の電気四極子の電荷分布を表す等価演算子で四極子演算子と呼ばれる.電気四極子の大きさは量子軌道の異方的な空間的広がり面積と電荷の積に比例する.希土類イオンのf軌道は角運動量で量子化されているので,四極子の大きさは演算子

Q_{¥Gamma ¥gamma}=Ze ¥langle r^2 ¥rangle ¥alpha_J O_{¥Gamma ¥gamma}
(10)

を用いて計算できる.ここにZeは希土類イオンの有効電荷,<r2>は希土類イオンでのf軌道の動径方向の自乗平均,αJはスティーブンス因子である.以下,四極子演算子OΓを単純に「四極子」と呼ぶことにする.


Fig. 4 対称歪みと結合する多極子



さて,点群の各既約表現に対応する四極子は角運動量Jx, Jy, Jzの線形結合で書き表され,等価演算子法を用いて以下のように記述できる.

¥Gamma_1:¥{O_B=J_x^2+J_y^2+J_z^2¥}¥¥
¥Gamma_3:¥Biggl¥{O_2^0=¥frac{2J_z^2-J_x^2-J_y^2}{¥sqrt{3}},O_2^2=J_x^2-J_y^2¥Biggr¥}¥¥
¥Gamma_5:¥{O_{yz}=J_yJ_z+J_zJ_y,O_{zx}=J_zJ_x+J_xJ_z,O_{xy}=J_xJ_y+J_yJ_x¥}¥¥
(11)

さらに,四極子同士にも伝導電子やフォノンを媒介としてRKKY的な相互作用が働いているものとし,これを四極子間相互作用のハミルトニアンをHQQとして次のように表すことができる.

H_{¥rm QQ}=-¥sum_i¥sum_{¥Gamma ¥gamma}g_¥Gamma^¥prime ¥langle O_{¥Gamma ¥gamma} ¥rangle O_{¥Gamma ¥gamma}^{(i)}
(12)

ここでgΓ'は四極子のサイト間相互作用定数であり,< OΓγ>は或るサイトi に注目したとき他の全てのサイトの四極子を期待値で置き換える分子場近似を表す.

4f 電子系で立方晶の場合,摂動を受けた結晶場に対する摂動ハミルトニアンは次の様に書ける.

H_{¥rm CEF}=H_{¥rm CEF}^0+H_{¥rm QS}+H_{¥rm QQ}
(13)

後の説明のため、結晶場ハミルトニアンは、Lea-Leask-Wolfの良く知られた表式[7]を用いておく。

H_{¥rm CEF}=B_4^0(O_4^0+5O_4^4)+B_6^0(O_6^0-21_6^4)¥¥
=W¥biggl(x¥frac{O_4}{F_4}+(1-|x|)¥frac{O_6}{F_6}¥biggr)
(14)

ここで,Wはスケール因子,x (|x|≦1)は4次と6次の項の係数比で,F4とF6は全角運動量Jによって決まる.Onmはスティーブンスの等価演算子で,これは結晶場ポテンシャルを球面調和函数で多重極展開すると得られる.全角運動量Jの結合式としての以下のようなテンソル演算子で記述できる.

O_4^0&=&35J_z^4-30J(J+1)J_z^2+25J_z^2-6J(J+1)+3J^2(J+1)^2¥¥
O_4^4&=&¥frac{(J_+^4+J_-^4)}{2}¥¥
O_6^0&=&231J_z^6-¥{315J(J+1)+735¥}J_z^4+¥{105J^2(J+1)^2-525J(J+1)+294¥}¥¥
&{}&-5J^3(J+1)^3+40J^2(J+1)^2-60J(J+1)¥
O_6^4&=&¥frac{(11J_z^2-J(J+1)-38)(J_+^4+J_-^4)}{4}+¥frac{(J_+^4+J_-^4)(11J_z^2-J(J+1)-38)}{4}¥¥
(15)

一方,四極子間相互作用が無視できない場合はεΓγの代わりに有効歪み$εΓγeffを考えると都合が良い.

H_{¥rm QS}+H_{¥rm QQ}=-¥sum_i¥sum_{¥Gamma ¥gamma}g_{¥Gamma}^{(i)} O_{¥Gamma ¥gamma}^{(i)} ¥biggl(¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}+¥frac{g_¥Gamma^¥prime}{g_¥Gamma}¥langle O_{¥Gamma ¥gamma} ¥rangle ¥biggr)=-¥sum_i¥sum_{¥Gamma ¥gamma}K_{¥Gamma}^{(i)} O_{¥Gamma ¥gamma}^{(i)} ¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}^{eff}
(16)

KΓは相互作用を繰り込んだ場合の結合定数である,1イオンに対する電子系の摂動のエネルギーは歪みの二次まで計算し,

E_i=E_i^0-K_{¥Gamma} ¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}^{eff}¥langle i|O_{¥Gamma ¥gamma}|i¥rangle+K_¥Gamma^2(¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}^{eff})^2¥sum_{i¥ne j}¥frac{|¥langle i|O_{¥Gamma ¥gamma}|j¥rangle |^2}{E_i^0-E_j^0}
(17)

と表すことができる.Ei0は四極子-歪み相互作用が存在しない場合の結晶場状態 $|i ¥rangle$のエネルギーである.
次に,弾性定数の表式を得るために自由エネルギーについて考える.系の全自由エネルギーは,

F=E_{elas.}-Nk_BT¥ln Z
(18)

と表される.右辺一項目は結晶の弾性エネルギー,二項目はf 電子系全体のエネルギーである.Nは単位体積あたりのf 電子の総数を表し,Zは状態和である.弾性定数は自由エネルギーを歪みεΓγで二階微分し,εΓγ→0の極限をとることで求められる.

C_¥Gamma=¥frac{¥partial^2F}{¥partial¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}^2}¥bigg|_{¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma} ¥rightarrow0}
(19)

CΓ0は四極子-歪み相互作用が働かないときの弾性定数を表しており,主に格子(音響フォノンの非調和性)からの寄与によるバックグラウンドとなる. χΓは四極子感受率(歪み感受率)とよばれ,

g_¥Gamma^2¥chi_¥Gamma(T)=¥bigg¥langle ¥frac{¥partial^2E_i}{¥partial¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma} ^2}¥bigg¥rangle -¥frac{1}{k_BT}¥bigg¥{¥bigg¥langle ¥bigg(¥frac{¥partial E_i}{¥partial ¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}}¥bigg)^2¥bigg¥rangle -¥bigg¥langle¥frac{¥partial E_i}{¥partial ¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma} }¥bigg¥rangle^2¥bigg¥}
(20)

で与えられる.ブラケットはボルツマンの熱平均を意味する.第一項はヴァンブレック項であり,四極子OΓγの行列要素の非対角要素からの寄与を表す.この項は低温で温度に依らず一定となる.第二項はキュリー項であり,OΓγの対角要素からの寄与を表す.四極子演算子にあまり馴染みが無い方も,上記の表式には見覚えがあるだろう.これは量子力学の二次摂動を用いた磁化$M$と,磁気感受率としての帯磁率χMの関係と全く同じである.四極子モーメントの熱平均は次のように書ける.

¥langle O_{¥Gamma ¥gamma}¥rangle=¥frac{1}{Z}¥sum_i¥langle i|O_{¥Gamma ¥gamma}|i¥rangle¥exp¥bigg(-¥frac{E_i}{k_BT}¥bigg)
(21)

いま,系が常磁性相における平衡状態で,四極子モーメント間に相互作用は働いておらず,摂動ハミルトニアンとしてHQSだけが効くと考えた場合,四極子感受率は,

¥chi_{¥Gamma}(T) = -¥frac{1}{g_{¥Gamma}}¥frac{¥partial ¥langle O_{¥Gamma ¥gamma} ¥rangle}{¥partial ¥epsilon_{¥Gamma ¥gamma}}
(22)

となる.従って,四極子感受率とは単位歪み当たりに誘起される電気四極子を意味し,これは一様な磁場中で磁気双極子モーメントの平均値として定義される磁化の関係に対応していることがわかる.
基底状態が四極子に対して縮退している場合(即ち,基底状態の波動函数を四極子演算子に適用したとき,その行列要素が対角成分を持つ場合)低温で温度の逆数(1/T)に比例する「弾性定数の減少(軟化)」が現れる.以後,結晶場によるf 電子の四極子自由度に起因する弾性定数の軟化を表す用語として「ソフト化」と定義しよう.

(第3章3.3節に続く)


3-5 多極子秩序における弾性異常

Sep 29, 2011
本稿は、新学術領域研究(研究領域提案型)「重い電子系の形成と秩序化」が主催した「重い電子系若手秋の学校’11」のテキストブックをHTML化したものです。

第3章 超音波実験の測定手法

 

3.5 多極子秩序における弾性異常


まずは歪みと線形結合する電気四極子が秩序を起こす典型物質の弾性応答を紹介しよう.反強四極子(AFQ)秩序を起こす物質の典型例といえば先ほど紹介したCeB6である[24].この物質はTQ = 3.3 KでΓ5型の四極子が秩序波数 k = [1/2 1/2 1/2]で整列するAFQ秩序を起こし,さらにTN = 2.3 K以下で反強磁性(AFM)秩序を示すことが中性子散乱実験,NMR,共鳴X線散乱実験で確認されている.図13にCeB6の弾性定数C44の低温部拡大図を示す.Γ8四重項結晶場基底状態はAFQ秩序の四極子-歪み相互作用によって2つのクラマース二重項に分裂する.そのためTQでC44のソフト化は止まり,低温でゆるやかに上昇する.TQ以上の常磁性相では1/Tに比例したキュリー項があるため,Γ8四重項が反強四極子秩序によって2つのクラマース2重項に分裂することで,四極子感受率-χΓ5が逆カスプ状に折れ曲がった結果としてこの弾性異常が理解できる.これは反強磁性磁化率において副格子磁化に平行に磁場を加えたときの磁化率χ||に現れるカスプ状の応答を垂直方向にひっくり返したものと類推することができる.

同じような振る舞いは正方晶DyB2C2の弾性応答にも観られる.DyB2C2は正方晶系で初めて反強四極子秩序が報告された物質である[25].TQ = 24.7 KでOxy型のAFQ秩序を示し,TNN = 15.3 KでAFM秩序を示すことが共鳴X線散乱実験や磁場下における中性子散乱実験で検証された [26, 27].Dy3+はJ = 15/2のクラマースイオンでありDyのサイトシンメトリーC4hの下で4E1/2(+)4E3/2と8つのクラマース二重項に既約分解される.比熱で見積もられた磁気エントロピーがTQでRln4に達することから,結晶場基底状態は2組のクラマース二重項が擬縮退した擬四重項基底状態になっていると考えられる.これらを踏まえて弾性定数を観ると,全ての弾性定数にソフト化が現れていることから [28],選択則より基底状態は対称性の異なる二つのクラマース二重項の組み合わせに限定される.さらにTQにおいて秩序変数Oxyの応答を観る弾性定数C66にはCeB6で弾性定数C44に観られたような)逆カスプ状の折れ曲がりが観測される.常磁性相におけるソフト化の変化量を比較すると四極子Oyz, Ozxの応答に対応する弾性定数C44が最も大きい.これは四極子-歪み相互作用の結合定数の大小によって決まっており,AFQ 秩序の秩序変数の対称性と常磁性相におけるソフト化の大きさの間に相関は無い.


図13 CeB6の弾性定数C44の低温部拡大図 [18]



図14 DyB2C2の弾性定数の温度変化 [39]


一方,強四極子(FQ)秩序を示す物質の場合は,秩序変数とそれに対応する弾性定数に現れるソフト化の大小に相関がある.図14にHoB6の弾性定数の温度依存性を示す.この物質はTQ = 6.1 KでΓ5型の四極子Oyz, Ozx, Oxyが<111>方向に整列するFQ秩序を示す.対応する弾性定数C44は協力的ヤーン・テラー効果による三方晶への構造変化に伴い,TQに向かって弾性定数が発散していることがわかる.これは強磁性転移において自発磁化が生じ容易軸方向の磁化率が発散することと類推できる.図15にCe3Pd20Ge6 の弾性定数の温度変化を示す.この物質はTQ = 1.3 Kで正方晶もしくは斜方晶への構造相転移が起こっていることが熱膨張と中性子回折実験で確認されている [29,30].弾性定数(C11-C12)/2$に50%を超えるソフト化が観測されることからΓ3対称性の四極子O20あるいはO22がFQ秩序していることを強く示唆する.


図15 HoB6の弾性定数C11, CL, (C11-C12)/2, C44の温度変化 [18]



図16 Ce$_3$Pd$_{20}$Ge$_6$の弾性定数$C_{11}$, $C_{¥rm L}$, $C_{¥rm B}$, $(C_{11}-C_{12})/2$, $C_{44}$の温度変化[57]


さて,四極子以上のランクの多極子と直接結合する共役場のプローブは今のところ見つかっていない.そのため,磁気八極子秩序や電気十六極子秩序が起こっていると考えられている物質に対しては,磁場や歪み場によって誘起される下位の電気四極子や磁気双極子を観測することで傍証を集めるしかない.現在,八極子秩序が実験的に立証されている系で超音波の報告があるのはCexLa1-xB6だけである.CeB6をLaで希釈していくと磁気相互作用と四極子相互作用が拮抗し,x = 0.75でAFQ転移温度とAFM転移温度が逆転した温度領域にOyz, Ozx, Oxyの強四極子モーメントが発生する非磁性のIV相と呼ばれる新たな相が現れる [31,32].超音波測定によって弾性定数C44は強四極子相関により31%の巨大なソフト化を示すことがわかり [33],赤津らによる熱膨張実験によって結晶がバルクで三方晶に歪んでいることが明らかとなった [34].これらの実験事実はIV相で強四極子モーメントが発達していることを強く示唆する.後に,この強四極子モーメントは久保・倉本によってΓ5u型の反強八極子秩序で二次的に誘起され得ることが理論的に示された [35,36].その後,共鳴X線散乱実験や磁場中中性子散乱実験が行われ,それぞれ反強八極子モーメントの誘起する電気四極子と磁気双極子の超格子反射が観測され,微視的に反強八極子秩序が実証された[37,38].


図17 Ce0.25La0.75B6の弾性定数C11, CB, (C11-C12)/2, C44の温度依存性 [31,33]


(第3章3.6節に続く)


3-3 立方晶系に於けるCe3+, Sm3+(J = 5/2), Pr3+, U4+(J = 4)の四極子感受率

Sep 29, 2011
本稿は、新学術領域研究(研究領域提案型)「重い電子系の形成と秩序化」が主催した「重い電子系若手秋の学校’11」のテキストブックをHTML化したものです。

第3章 歪みと弾性定数,四極子感受率

 

3.3 立方晶系に於けるCe3+ , Sm3+ (J = 5/2), Pr3+ , U4+(J =4) の四極子感受率


上記の四極子感受率をJ = 5/2とJ = 4の場合について計算した結果を示し,四極子自由度を有する典型的な希土類化合物の弾性定数と比較してみよう.

(1) J = 5/2

f電子軌道が安定で局在している場合(混成や価数揺動等が無く,結晶場基底状態がLS多重項で記述できる場合)を考える.先ず半整数の角運動量Jを持つ系を考える.Ce3+やSm3+は半整数の角運動量J = 5/2をJ多重項の基底状態に持ち,立方晶系の結晶場ではΓ7二重項とΓ8四重項に分裂する.その波動函数と固有値は次の様に書ける.

¥big|¥Gamma_7;  ¥pm¥big>=¥frac{1}{¥sqrt{6}}¥big|¥pm¥frac{5}{2}¥big>-¥sqrt{¥frac{5}{{6}}}¥big|¥mp¥frac{3}{2}¥big>,¥hspace{10mm}E_7=<¥Gamma _7|H_{¥rm CEF}|¥Gamma _7>=-240B^0_4,¥nonumber ¥¥
¥big|¥Gamma_8;  a¥pm¥big>=¥sqrt{¥frac{5}{{6}}}¥big|¥mp¥frac{5}{2}¥big> -¥frac{1}{¥sqrt{6}}¥big|¥pm¥frac{3}{2}¥big>,¥hspace{53mm}¥nonumber ¥¥ 
¥big|¥Gamma_8; b¥pm¥big>=¥big|¥pm¥frac{1}{2}¥big>,¥hspace{10mm}E_8=<¥Gamma _8|H_{¥rm CEF}|¥Gamma _8>=+120B^0_4.
(23)


ここで|J = 5/2, J_z> = |J_z>とした.Γ7はクラマース二重項であり,磁場によって分裂するが,歪み場では分裂しない.他方,Γ8四重項は2つのクラマース2重項が縮退しており,磁気双極子のみならず,電気四極子・磁気八極子も合わせて4 x 4 = 16の自由度を持つ.(表4)


表4 O群の積表



よって,Γ8基底状態を持つCe, Sm化合物では四極子または八極子が秩序変数となり得るため,極めて興味深い多極子の物理が期待できる.超音波物理の観点からは基底状態がΓ7かΓ8であるかに従って,相異なる弾性定数の温度変化を示すことが期待されるため,分光学的に結晶場基底状態を決定できる.例として図5にJ = 5/2におけるΓ7基底状態の場合とΓ8基底状態の場合の四極子感受率を示す.それぞれ縦軸と横軸は結晶場分裂幅Δ [K]で規格化してある.ここでxはLea-Leask-Wolfの結晶場ハミルトニアンにおける変数xに対応する[7].Γ3対称性の歪みに対応する四極子感受率-χΓ3は四極子O22の応答であり,横波弾性定数 (C11-C12)/2に対応する.Γ5対称性歪みに対応する四極子感受率-χΓ5は四極子Oyz, Ozx, Oxyの応答であり横波弾性定数C44に対応する.Γ7基底の場合,低温でヴァン・ヴレック項が支配的となり弾性定数は一定値に収束する.一方,Γ8基底の場合は低温でキュリー項が支配的となり,1/Tに比例するソフト化が現れる.


Fig. 5 (a) J = 5/2に対する立方晶系点群Ohの結晶場レベルスキーム (W = 1とおいた).
結晶場A, Bを仮定した場合の;
(b) 四極子感受率-χΓ3の温度依存性,
(c) 四極子感受率-χΓ5の温度依存性
(縦・横軸共に第一励起状態の結晶場分裂幅Δでスケールした.)



Fig. 6 (a) J = 4に対する立方晶系点群Oh (Th :破線 )の結晶場レベルスキーム (W = 1とおいた) [16,17].
Oh群における結晶場A-Dを仮定した場合の;
(b) 四極子感受率-χΓ3の温度依存性,
(c) 四極子感受率-χΓ5の温度依存性
(縦・横軸共に第一励起状態の結晶場分裂幅Δでスケールした.)


(2) J = 4
次に,全角運動量Jが整数の場合を考えよう,J = 4の波動函数と固有値は以下の様に書ける.
|¥Gamma_1 ¥rangle=¥sqrt{¥frac{7}{12}}|0 ¥rangle+¥sqrt{¥frac{5}{24}}(|+4 ¥rangle-|-4 ¥rangle),¥hspace{15mm}¥langle ¥Gamma _1|H_{¥rm CEF}|¥Gamma _1 ¥rangle=28(B^0_4-60B_6^0),¥hspace{3mm}¥nonumber ¥¥
|¥Gamma_3^{(1)} ¥rangle =¥sqrt{¥frac{1}{2}}(|+2 ¥rangle-|-2 ¥rangle),¥hspace{67mm}¥nonumber ¥¥ 
|¥Gamma_3^{(2)} ¥rangle =¥sqrt{¥frac{5}{12}}|0 ¥rangle-¥sqrt{¥frac{7}{24}}(|+4 ¥rangle-|-4 ¥rangle) ,¥hspace{14mm}¥langle ¥Gamma _3|H_{¥rm CEF}|¥Gamma _3  ¥rangle=4(B^0_4+336B_6^0),¥hspace{3mm}¥nonumber¥¥
|¥Gamma _4^{(0)} ¥rangle =¥sqrt{¥frac{1}{2}}(|+4 ¥rangle-|-4 ¥rangle),¥hspace{67mm}¥nonumber ¥¥
|¥Gamma _4^{(¥pm)} ¥rangle =¥sqrt{¥frac{1}{8}}|¥pm3 ¥rangle+¥sqrt{¥frac{7}{8}}|¥mp1 ¥rangle),¥hspace{14mm}¥langle ¥Gamma _4|H_{¥rm CEF}|¥Gamma _4  ¥rangle=14(B^0_4+6B_6^0),¥hspace{3mm}¥nonumber ¥¥
|¥Gamma _5^{(0)} ¥rangle =¥sqrt{¥frac{1}{2}}(|+2 ¥rangle-|-2 ¥rangle),¥hspace{65mm}¥nonumber ¥¥
|¥Gamma _5^{(¥pm)} ¥rangle =¥sqrt{¥frac{7}{8}}|¥pm3 ¥rangle-¥sqrt{¥frac{1}{8}}|¥mp1 ¥rangle),¥hspace{12mm}¥langle ¥Gamma _5|H_{¥rm CEF}|¥Gamma _5  ¥rangle=2(13B^0_4+210B_6^0).¥nonumber ¥¥
(24)

整数の角運動量を持つ希土類化合物も興味深い弾性的性質を示す.立方晶系においてΓ3二重項の波動函数は,Γ3対称性の電気四極子O20,O22の行列要素に対角成分を持つため,Γ3対称性の四極子感受率に低温で1/Tに比例した結晶場によるソフト化が期待される.一方,磁気測定(帯磁率,中性子散乱)からは選択則(磁気双極子モーメントJx, Jy, Jzは立方晶系においてΓ4uに属することを踏まえて表4のO群の積表を参照してみよう.)よりΓ3二重項の応答が得られないため,超音波測定がΓ3非クラマース系の研究において欠かせない道具となっている.超音波で観測される弾性定数(C11-C12)/2に対応する四極子感受率-χΓ3はΓ3状態のキュリー項を敏感に検出できる.これまでPrPb3, PrMg3, PrPtBi, PrInAg2, PrIr2Zn20などがΓ3基底を持つ化合物として注目されている.そこでは四極子の不整合構造や四極子近藤効果,さらにΓ3二重項が持つ磁気八極子Txyzの効果など,様々な物理の議論が展開されている.

図6(b), (c)にJ = 4について様々な基底状態(Th群の影響はΓ4とΓ5にのみ現れる.ここでは竹ヶ原らによる結晶場ハミルトニアン[16]の6次項(O62-O66)に付く変数yとして,PrOs4Sb12の結晶場解析で用いられた値y = 0.105を用いた.)を仮定した場合の四極子感受率の計算結果を示す.基底状態と第一励起状態の結晶場分裂幅Δで温度軸と縦軸を規格化してある.基底状態がΓ3の場合-χΓ3は低温でキュリー項によるソフト化が現れ,-χΓ5は低温で一定値に収束するヴァン・ヴレック項が支配的となるため選択則によるコントラストが現れる.

さて,典型物質の弾性定数と比較してみよう.図7にCeB6の弾性定数を示す[18].CeB6は立方晶で,Ce3+イオン(J = 5/2)の結晶場基底状態はΓ8(0 K)-Γ7(540 K)であることがわかっている.弾性定数はΓ8四重項を反映して(C11-C12)/2, C44共に低温でキュリー項による1/Tに比例したソフト化が観測される.超音波実験によって決定されたC44の四極子間相互作用係数はg'Γ5= -2.2 Kと負の値をとり,Oyz, Ozx, Oxy型の反強四極子秩序を示唆する.

一方,J = 4の系で超音波が最もその威力を発揮するのは先述のΓ3基底を持つ系であるが,本稿ではあえてPrOs4Sb12を挙げよう.この物質においてPrイオンのサイトシンメトリーはT h で,Γ14(2)が約8 Kで擬縮退した擬四重項基底状態を持つことが解っている.実はこの物質が注目された当初は比熱,磁化の解析から基底状態はΓ23(OhにおけるΓ3)二重項であると考えられていた[19].図8と図9に弾性定数(C11-C12)/2とC44の温度変化と,2つの結晶場モデルによる計算結果をそれぞれ示す.図8の内挿図を見ると,Γ1基底を基にした四極子感受率の計算結果は3 Kで極小値をとってハード化するため,TC = 1.85 Kまで弾性定数の減少が続く実験結果を再現できていない.このように零磁場の四極子感受率の解析では一見Γ23基底の方が良く合っているように見える.しかし,それが誤りであることは弾性定数の磁場変化を測定すると明らかになる.図10に弾性定数(C11-C12)/2の磁場変化(H || <110>)と,基底状態のゼーマン分裂を考慮した四極子感受率の磁場変化をそれぞれの結晶場基底モデルについて示す[20,22].するとそこでも結晶場モデルによって四極子感受率に明らかな差異が認められ,Γ1基底のモデルが良く合うことがわかる.PrOs4Sb12は磁場誘起の四極子秩序を示すが,H || <110>において8 T付近で生じる準位交差がその起源となることからもΓ14(2)の擬四重項基底状態であることが裏付けられる.それでは,なぜ実験結果は低温領域で四極子感受率に基づく計算から「ずれ」るのだろうか.その理由はPrイオンのオフセンター自由度を考えることによって説明される[21].(詳細は5.3章で述べる.)


FIg. 7 CeB6の弾性定数C11, CB, (C11-C12)/2, C44の温度変化



Fig. 8 PrOs4Sb12の弾性定数(C11-C12)/2の温度変化
(30 Kの弾性異常はラットリングに伴う超音波分散である.実線はΓ1基底状態,破線はΓ23基底状態を仮定した場合の四極子感受率による解析)[58]



Fig. 9 PrOs4Sb12の弾性定数C44の温度変化(実線はΓ1基底状態,破線はΓ23基底状態を仮定した場合の四極子感受率による解析)[58]



Fig. 10
(a) PrOs4Sb12の弾性定数(C11-C12)/2の磁場変化 (H || <110>).
(b) 結晶場基底状態にΓ14(2)擬四重項を仮定した場合の四極子感受率-χΓ23の磁場変化 (-χΓ3と同義).
(c) 結晶場基底状態にΓ234(2)擬五重項を仮定した場合の四極子感受率-χΓ5の磁場変化.(それぞれ内挿図は結晶場レベルスキームの磁場変化)[22]



(第3章3.4節に続く)

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