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スイッチ・デジタル利得制御付き低歪みRF増幅器
                       関 春海

 

sin-cosの関係  NMR分光器の最終段である位相検波(PSD)には通常パワースプリッターで2つに分けられた同位相(0°)の信号を入力する。ここに90°のLO信号を入力するとsin成分、0°のLO信号を入力するとcos成分の出力を得ることができる(右上図、青文字)。
 0°の2wayパワースプリッターは通常広帯域であるが振幅のアンバランス等素子による違いが大きい。今回はパワースプリッターによる操作をアンプの差動出力で置き換えることを検討した。
 差動出力は0°と180°の2つの信号に分けることができるのでこれをPSDに入力する。 アンプから0°の信号を入力された方に90°のLO信号を入力するとsin、180°を入力された方に0°のLO信号を入力すると−cosの信号が得られる(右上図、赤文字)。cosの符号が逆になるが、パワースプリッターで同位相の信号を入力したときと出力後の接続を逆にすることでsinとcosの関係は同様に保つことができるということが今回のアイディアである(右下図参照)。また、差動出力のアンバランスは、半導体内で校正され素子によるばらつきも少ない。

基板  PSDの前段にあたる信号を出力する回路としてデジタル利得制御付きIFアンプ[Linear Technology:LT5524]をキーデバイスとして設計した
。  LT5524は電源+5V、帯域幅はLF〜540MHzのアンプである。この周波数帯域はNMRの研究に十分である。また、4本のパラレル・デジタル入力により、1.5dBステップ分解能で22.5dBの範囲にわたって利得の制御ができる。差動出力を50Ωで直接取り出すことにより二つの出力から0°と180°の位相の異なる信号を得ることができるので、これをPSDに入力する。出力直前の抵抗で電圧降下を補償するために+6.5Vで吊り上げる必要があるので、+6.5Vの電源を可変三端子レギュレータで用意した。
 LT5524は差動入力でありRINは約122Ω、回路のインピーダンスは50Ωである。このインピーダンスマッチングのために抵抗比2:1(巻線比1.4:1)のバラン[Mini-Circuits:TC2-1T]を用いた。
 また入力直後に電源+2.5Vのスイッチ[Analog Devices:ADG918]を配置。外部からコントロール信号を入力することで、HighのときOff、Low(GND)のときOnになるように設計した。
 部品からの要請で+2.5V、+5V、+6.5Vの電源が必要となるので回路の電源を+8Vにし、部品に必要な電源は三端子レギュレータを用いて作り出した[2.5V→NJM78L02、5V→L78L05、6.5V→LM317]。

プリントパターン  これらの部品がすべてsurface mountタイプであったので、TurboSketch15で50o×100oの大きさのプリントパターンを設計した(パターンが必要な場合は下からダウンロード)。これをインクジェットフィルムに印刷し、Sunhayatoのクイックポジ感光基板[NZ-G31KR]に露光、エッチングしてプリント基板を作成した。
 基板の裏面はベタアースとなっており、部品面のグランドは3cm程度の間隔で10か所程度細い穴をあけ金属で導通をとっている。

接地  RF信号の入出力にはSMAコネクタを使用し、スイッチや利得制御用のコントロールピンと+8V電源には貫通コンデンサを使用した。SMAコネクタのグランドは、はんだ吸い取り線をSMA取り付けねじにかませる形で取り出し、基板の信号入力近くのグランドと接続する。

ケース  ケースは4枚のアルミ板を張り合わせる形で外枠を作り、SMAコネクタや貫通コンデンサをねじ止めするために直接ねじを切った。そのため6oの厚さになっている。ケースが接地されるため、基板とケースの間に1〜2o程度の隙間ができるように注意する。また底面のアルミ板を大きめにし、耳を出すことで実際に使用する際ねじで固定することも可能になっている。完成したケースの大きさは底面100o×120o、高さ20oと非常にコンパクトにすることができた。実装写真を示す。
 特性確認はネットワークアナライザを用いて行った。アッティネーターを用いて−32dBmの信号を回路に入力し出力を確認する。利得制御ピンをすべてHigh(open)の状態で10MHzのゲインを確認すると、予想したようにアンバランスは少なく2つの出力はともに−18dBmであった。そのため、このアンプではすべての利得制御ピンがHighの状態で14dB増幅することができることが分かった。
 また、Signal Generatorで10MHz、0dBmの信号を入力し、オペアンプで波形を確認したところ、二つの出力の位相が180°異なっていることも確認できた。

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回路図                                                2011年2月28日