多くのRF機器はその周波数標準として外部クロックの入力を持っており、その周波数標準の安定性が装置の性能に直接関係する。 そのため10MHz OCX MODULEを製作した。
NMRではppmオーダーのシフト量を測定するので、 周波数安定度は測定値に影響のない大きさでなければならない。 一般のパッケージ水晶発振器(SPXO)の安定度は±50〜100 ppm、 温度補償水晶発振器の安定度は±0.5〜2.5でありNMRに接続する回路の基準周波数としては不適切であるが、 恒温槽付き水晶発振器(OCXO)の周波数安定度は±0.005〜10 ppmなので 基準周波数として十分な安定度を持つ。したがって、今回は周波数安定度0.15 ppm(±0.075ppm以内)である Tamaデバイス の恒温槽付き水晶発振器(型番:OCXOWT-シリーズ)を使用した。 この水晶発振器は優れた周波数安定度を持ち、小型14ピンパッケージと非常に扱いやすい。電源電圧は+3.3 Vである。 また、数個からの入手が可能である。
高調波をカットするためのLow Pass Filterとしては Mini-CircuitsのPLP-10.7を使用した。 このフィルターはカットオフ周波数11 MHzであるから、 10 MHz水晶発振器の高調波をカットするために有効である。
オペアンプとしては、Linear TechnologyのLT6200を使用した。 このオペアンプはBandwidthが165 MHzなので十分な周波数特性を満たす。 また、回路全体の電源をOCXOと同じ片側3.3 Vに統一したいという要請のため、+3.3 V電源で動作し、 電源電圧ぎりぎりまで振れるRail-to-Railであることも選定理由である。 ただし実装する際、表面実装用であるこのアンプをディップ型に変更するために秋月電子の変換基板を用いた。
基板は部品面がメッシュアースの高周波用ユニバーサル基板(Sunhayato ICB-93SEG) を用いた。すべての部品ははんだ付けすることにより実装が可能である。 RF信号の流れるパスを短く、他の信号とクロスしないように実装すれば、 初心者(はんだ付け歴1年)の筆者でも十分な性能を引き出すことができる。 入出力にはSMAコネクタを用いた。
水晶発振器の周波数は可変抵抗によって微調整することができる。 今回使用した水晶発振器は電圧制御タイプであったので、 Vc端子にデータシートと同様の回路を作成した。
水晶発振器、オペアンプなど電源のあるものには 電源ピンの近くに高周波ノイズを軽減するためにバイパスコンデンサを挿入した。
増幅回路では振幅だけでなくオフセット電圧まで増幅されてしまうので、 あまり大きな増幅度を設定すると信号が0〜3.3 Vの中に納まらず信号を検出することができない。 そのためオフセット電圧と信号の大きさのことを考え併せて、 バランスよく抵抗分圧と増幅を組み合わせる必要がある。
回路全体の電源が片側3.3Vであるためオペアンプに入力する前に カップリングコンデンサと抵抗分圧によって吊り上げておく必要がある。 そのため一つ目のオペアンプの直前に二つの600 Ω抵抗を用いて、 信号の中心を約1.6 Vにバイアスした。
この二つの600 Ω抵抗(交流に対して並列300 Ω)と 水晶発振器の直後に挿入した2 kΩの抵抗により信号が分圧される。 そのため、水晶発振器から出力された振幅3.3 Vの10 MHz信号は オペアンプに入力されるときには約0.13倍の大きさになる。 LPFの入出力インピーダンスが50 Ωなので、 これをボルテージフォロアで出力インピーダンス50 Ωにして出力する。
また、フィルター前後の二つの50Ω抵抗により信号の中心は約0.8 Vになり、 0.8 Vにバイアスされた±0.2 Vの10 MHz信号となる。 これを2倍の非反転増幅回路で増幅し50 Ωの出力インピーダンス、 ACカップリングで外部に出力する。
実際の出力波形をオシロスコープ(Agilent Technologies DSO 3102A) で観測したものが左下図であり、スペクトルアナライザ(HEWLETT PACKARD E4401B)BW=1 kHzで観測したものが右下図である。
回路図は以下のようなものを設計した。→ダウンロードはこちら!
2010年11月29日