北海道大学 理学部
物理学科 支援室
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物質の根源を捉える
物質の最小要素である素粒子を理解するためには、まず目で見ることができる粒子のイメージから離れることです。素粒子の振る舞いを捉える手段は数式と想像力。新たな素粒子の存在を理論的に予言します。質量の起源を担う素粒子として予言されたヒッグス粒子の存在は、加速器実験による確認段階にきています。
素粒子の世界はまだ説明できない領域も多く、すべての理論を貫く統合した理論の発見が待たれています。
原子核に封印された物質創成の軌跡
陽子と中性子で構成された原子核の起源は、ビッグバンにまで遡ります。現在約2000種類の原子核の存在が明らかになっていますが、どのようにして多様な原子核が創られたのかはわかっていません。
原子核の研究は、医療技術の発展やエネルギー問題の解決など幅広い分野への応用が期待されています。
原子核を使って電子を観る
伝導性、磁性など、私たちの生活に欠かすことのできない物質の性質の多くは、固体中の電子が生み出しています。固体中の電子は、原子核の磁化(核磁化)と相互作用しており、核磁化の状態を観ることで、電子系のミクロな状態を知ることができます。核磁化の状態が電磁波の共鳴周波数の違いとして現れる現象を測定技術として応用したのが核磁気共鳴(NMR)分光法です。この技術は、MRIのような医療技術から、創薬や化学分析にも広く応用されています。
原子1個を観る・つまむ・操る
走査トンネル顕微鏡(STM)は、金属や半導体などの物質表面の原子像を観測することのできる顕微鏡です。この顕微鏡により、超伝導体における電子状態の観測など、原子スケールにおける電子状態の研究を飛躍的に進歩させることができました。最近では、STMを用いて結晶表面上の原子の位置や配列を自由にコントロールする原子マニピュレーションの技術も研究されています。
莫大な数が起こす性質の変化
粒子が数多く集まると、粒子一つ一つからは考えられない新たな性質を見せることがあります。水(液体)から氷(固体)や水蒸気(気体)へと変化する「相転移」現象はその代表例です。磁石の「強磁性」や金属電子が電気抵抗なしに流れる「超伝導」も相転移の結果として現われます。このような現象を解明し、多数の粒子集団が示す新しい物理の発見を目指しています。
室温で超伝導になる日をめざして
特定の金属は極低温で電気抵抗がゼロになります。この現象は超伝導と呼ばれ一世紀も前から知られていましたが、30K(-243℃)以下でのみ起きると考えられていました。その後、有機物や酸化物などの新しい物質でも超伝導が発見され、現在では138K(-135℃)という高温で超伝導となる物質が見つかっています。これらの有機物超伝導体や酸化物超伝導体は、従来の超伝導とは異なる機構で起きていると考えられ、その機構が解明されれば室温超伝導も夢ではなくなります。
通常の千倍も「重い」電子
結晶中の電子の動きやすさを質量に換算したものを「電子の有効質量」と言います。電気をよく通すアルカリ金属では、電子の有効質量は自由な電子の質量とほぼ同じになります。これに対し、レアアースを含む化合物には、たくさんの電子が相互作用することにより電子の有効質量が自由な電子の数百~千倍にも重くなる物質群があり、「重い電子系」と呼ばれています。この重い電子系において、極低温で奇妙な磁気的性質や超伝導が見つかり、その解明を目指した研究が行われています。
ナノスケールで制御する新しい磁性
近年、ナノスケールの加工技術が進み、物質を非常に 薄くしたときに生じる性質の変化を計測できるようになりました。これによって、強磁性を示す物質をナノスケールまで薄くすると磁気的性質が変わる現象や、逆に強磁性でないものを小さくすると強磁性体になる現象が見つかりました。これは磁性体内の電子のスピン(自転)の影響によるものです。強磁性体の形状とスピンの研究は、今や日常生活に欠かせないハードディスク等に応用されており、新しい機能の開発が進んでいます。
生命を液体の集合体として見る
気体、液体、固体状態を分子運動の面から見ると、気体では分子が自由に飛び回り、固体では分子が規則正しく整列していて、これらの状態は比較的よく理解されています。これに対して、液体では分子同士が相互作用しながらバラバラに移動していて、その性質の理解は大変難しい問題です。
細胞の隅々まで液体で構成されている生命体。液体の研究は、生命現象やその起源を根本原理から理解することにもつながる、物理学の重要なテーマです。
レーザーで探る物理現象の不思議
光は電磁波の一種で、物質中にある荷電粒子(電子や原子核)と相互作用します。電磁波が荷電粒子の振動を引き起こす場合を「光吸収」、逆に荷電粒子の振動が電磁波を放出する場合を「発光」として私たちは見ているのです。これらが同時に起こると光の散乱や反射、屈折となります。
このような現象を統一的に記述することを目指しているのが「光物性」という分野です。特に高い強度と時間的分解能をもつ持つレーザー光を照射することによって、物質が一旦光を吸収した後に別な光を放出する現象や電気伝導度が変化する現象等を観測しています。
物の性質をオーダーメイドする
いくつかの物質をある割合で合成させると驚きの性質を出現させることができます。半導体のように電気の流れを制御できる独特の機能を持つ物質も、合成によって作り出すことができます。今注目されているのは「強誘電体」と呼ばれる物質で、次世代メモリの開発につながる機能性の高い強誘電体の合成が期待されています。
世界の「つながり」に一貫した性質を見る
自然界や人工物を問わず、人間関係、インターネット、電力網、食物連鎖といったあらゆるネットワークは、要素が違っていてもつながり方に共通点を見つけることができます。例えば、友達の友達をたどるとわずか数人で世界の誰にでもたどり着くという「スモールワールド現象」があります。このような、あらゆるネットワークに見られる共通した性質が、新しい統計物理学によって解明されつつあります。
「天の川」の星の誕生の謎を探る
天の川は、銀河と呼ばれる一千億もの恒星の大集団です。天の川銀河では、今も1年に1個の恒星が誕生していますが、そのしくみは、まだよくわかっていません。その謎を明らかにするために、一酸化炭素分子やアンモニア分子、水分子からの輝線を電波望遠鏡で観測し、10K(-263℃)の超低温のガスの様子を調べています。この宇宙からの電波が、星の誕生の謎を解明する手がかりを与えてくれます。
計算機で物質の中を覗いてみる
物理学は観て考える学問です。観測して解釈する、予言して検証する。「実験」と「理論」は自然現象探求の両輪です。これに加えて、コンピューター性能の飛躍的向上を背景に浮上・躍進する第三のアプローチが「計算物理学」です。大量の要素(電子、イオン、人、車、はたまたお金)が相互作用する物理現象をシミュレーションで再現します。電子が動けば電流、車がよどめば渋滞、その原因を突き止め、この制御を目指します。
日常生活では体験することの無い超低温・超高圧、人間の五感では検知できない刹那時間・微小空間での集団現象を、計算物理学は眼前に提示することができます。実験と理論を架橋する補助的な役割を越えて、現代科学に新たな領域を開拓しています。
アインシュタイン方程式で宇宙を旅する
ニュートン力学が描けるのは、物質と空間、時間の相互関係がない世界でした。壮大な宇宙空間の現象を表すには限界があったのです。この問題を突破したのがアインシュタイン方程式です。日常感じることはありませんが、厳密には物があればその周りの空間は歪み、時間の進み方が変わります。空間、時間、物質が互いに影響しあ合う関係にあることをアインシュタイン方程式は教えています。これによって、重力によって光が曲がることの説明や、惑星の運動の正確な計算ができるようになりました。また、宇宙の膨張もこの方程式によって導かれます。
宇宙を記述する万能な方程式は、時空を超えた宇宙の旅に私たちをいざなってくれます。
時空を超えてとどく宇宙の暗号を解く
137億年前の誕生から今もなお膨張を続けている宇宙。その構成要素のうち、私たちが理解できているのは4%に過ぎません。正体のわかっていない残り96%は、暗黒物質、暗黒エネルギーと呼ばれています。多くの研究者が宇宙にさまざまな観測の目を向け、その手がかりから宇宙の暗号をひも解く研究に取り組んでいます。