Ultrasonic Team (T. Yanagisawa, Hokkaido Univ,)    


Crystalline Electric Field and Kondo Effect in SmOs4Sb12

Mar 18, 2016

近年、複数の4f電子を持つ希土類元素を含む金属間化合物において、電子間の強い相互作用により伝導電子の有効質量が増大する「重い電子状態」が発見され、その性質や発現機構が問題になっています。重い電子状態は、CeやYbの化合物についてはよく研究されており、理解が進んでいます。それに対し、PrやSm、Euなどを主体とした化合物については、実験的な傍証が少なく、理解が進んでいるとは言い難い状況です。一般に、原子番号が大きい希土類ほどフェルミエネルギーから深い位置に4f準位を持つため、伝導電子と4f電子間の混成(c-f混成)による重い電子状態を形成しにくいと考えられています。一方で、多数の配位子が希土類イオンを取り囲むカゴ状構造を持つ場合、混成する経路が多くなり、強いc-f混成効果が期待できます。実際に、PrやSmを含むカゴ状化合物において、風変わりな重い電子状態が発見されております。例えば、Smの重い電子系カゴ状化合物では、重い電子系Ce化合物にないような、磁場に鈍感な重い電子状態と磁気秩序が発見され、注目が集められています。さらに、カゴ状化合物では強いc-f混成効果だけではなく、結晶場の擬縮退による多極子自由度や、ゲスト希土類イオンの非調和振動(ラットリング)が生じ、それらが低温物性に大きな影響を及ぼすと考えられています。
本研究で取り上げる充填スクッテルダイトSmOs4Sb12は、比熱から見積もられる電子比熱係数が820 mJ mol-1 K-2と大きく、重い電子状態を形成していると考えられています。この電子比熱係数の値は8 Tの外部磁場中でもほとんど変化せず、磁場によって抑制されるCe化合物の重い電子状態とは対照的です。この磁場に鈍感な重い電子状態の発現機構としては、ラットリングに起因した局所電荷揺らぎや価数揺らぎを起源とするものが理論提案されています。また、本系はTC ~ 2.5 Kで弱い強磁性モーメントを伴った相転移を示します。この低温秩序相における強磁性については、遍歴強磁性の可能性と、多極子秩序に伴う寄生モーメントの可能性が指摘されており、争点となっています。
4f電子と伝導電子のかかわる複雑な多体量子系を理解するためには、4f電子系が低温で持ちうる多極子自由度を規定する結晶場基底状態についての情報が重要です。しかし、本系においては2つの結晶場模型が提案されており、未だ決着が付いておりません。また、本系の低温におけるc-f混成効果を4f電子の局在モーメントの応答から議論した例はなく、c-f混成の低温物性への影響は明らかになっていませんでした。そこで、本研究では、SmOs4Sb12の重い電子状態の形成にc-f混成効果とラットリングによる電荷揺らぎのどちらが本質的なのかを明らかにすることと、低温秩序相における多極子自由度の寄与を調べることを目的とし、局在電子系の四極子モーメントの応答や局所電荷揺らぎを観測できる、超音波測定をパルス磁場中、ならびに、静水圧力下で行ないました。
一般に、強いc-f混成がある場合、低温・低磁場では局在電子模型による結晶場準位の決定は困難です。そこで、本研究では、パルス強磁場を用いた超音波弾性定数測定により、c-f混成のエネルギースケールを越えた領域での弾性応答から結晶場基底状態の決定を試みました。本研究のパルス磁場中弾性定数測定では、4.2 Kにおいて弾性定数C44が10 T以下の低磁場で減少し、高磁場側で増大する振る舞いが観測されました。また、磁場印加に伴い弾性定数C11が増大する振る舞いが観測されました。これらの弾性応答には、結晶場基底状態の対称性に関する明瞭な選択則が現れており、Γ67四重項基底状態を強く示唆します。さらに、ゼロ磁場の弾性定数の温度変化から歪み-四極子結合定数を決定し、それを用いて弾性定数の磁場変化の定量的な計算を行ないました。この局在模型を用いた計算の示す変化量が、実験結果の弾性定数C44の10 T以上の変化量とほぼ一致したことから、少なくとも20 T以上での高磁場領域で局在性が回復していることが示唆されます。また、低磁場側での計算結果との不一致は、低温・低磁場では局在模型が適用できず、c-f混成が支配的であることを改めて裏付ける結果です。

Our ultrasound results obtained in pulsed magnetic fields show that the filled-skutterudite compound SmOs4Sb12 has the Γ67 quartet crystalline-electric-field ground state. This fact suggests that the multipolar degrees of freedom of the Γ67 quartet play an important role in the unusual physical properties of this material. On the other hand, the elastic response below ≈20 T cannot be explained using the localized 4 f-electron model, which does not take into account the Kondo effect or ferromagnetic ordering. The analysis result suggests the presence of a Kondo-like screened state at low magnetic fields and its suppression at high magnetic fields above 20 T even at low temperatures.

For more information please see our paper: S. Mombetsu et al., J. Phys. Soc. Jpn. 85 (2016) 043704.

(also available on arXiv:1603.09069 [cond-mat.str-el])

Hokudai Lunch Map (Test)

Jan 01, 2016

Gamma 3-type Lattice Instability
and the Hidden Order of URu2Si2

Nov 30, 2012

URu2Si2 は体心正方晶 ThCr2Si2 型(空間群 No.139, I4/mmm)の結晶構造をとり、 To = 17.5 Kにおいて「隠れた秩序(Hidden Order)」と呼ばれる、秩序変数・秩序波数が共に未解明の相転移を示す重い電子系化合物です[1]。また、本系はさらにTc = 1.4 Kで異方的超伝導転移を示すことも知られています。隠れた秩序において、零磁場μSRや29Si-NMR実験では To以下で顕著な内部磁場が観測されないことから、内場が零か、もしくはあっても極微少であることがわかっています[2]。そのため、これまで数多くの隠れた秩序変数の候補が提案されていますが、その中の有力な候補として非磁性の電気多極子が挙げられます[3]。
一方、URu2Si2 の隠れた秩序相内(T ~ 1.5 K)でc軸に磁場を印加した場合、35 Tから3段のメタ磁性転移が起こり、c軸磁化率が増大することがこれまでにわかっています[4]。本研究ではドレスデン強磁場センターにあるパルスマグネットを用いて最大磁場68.7 Tのパルス磁場下で超音波測定を行い、強磁場下における弾性応答の観点からURu2Si2 の低温電子状態を調べました。一般に、5f 電子状態を局在的に扱う場合、弾性応答は局在5f電子が持つ電気四極子の応答として理解できます。一方、5f 電子を遍歴的に扱う場合、弾性応答は電子格子相互作用を通じてバンドの状態を反映します。このように超音波によって試料中に誘起される歪み場は磁場と直交するため、磁場中での超音波測定は上記の電子状態を分光学的に調べる上で強力な実験手法と言えます。
T = 1.5 Kにおいてc軸方向にパルス磁場をかけて弾性定数(C11C12)/2を測定した結果、メタ磁性転移近傍で(C11C12)/2は階段状の異常を示しつつ、50 Tまで約0. 7 %増大しました。その変化量は零磁場下の温度変化において120 K付近から最低温度までに生じる緩やかな弾性定数の減少(ソフト化)の大きさとほぼ一致するように見えます。一方、c軸磁化率も (C11C12)/2と良く似た磁場・温度依存性を示すことから、それらの起源が共通の根を持っている可能性が示唆されます。c軸磁化率と(C11C12)/2の温度依存性において低温で共通して生じる減少傾向は、5f電子の混成効果と結晶場効果の複合によって説明できると考えられますが、遍歴性と局在性の二重性を持つ5f電子系を記述するための基本描像が未だ定まっていないため、その判別は難しいところです。いずれにせよ、 (C11C12)/2モードは対称性を低下させる斜方晶歪み(Γ3: 基底関数x2y2)に対応することから、URu2Si2ではΓ3対称性の格子不安定性を伴う電子状態が低温で形成されており、c軸磁場で生じるメタ磁性転移によって隠れた秩序が壊れるのと同時にその電子状態から、比較的「軽い」電子状態で尚かつ格子不安定性が抑制された状態に回復していることが、本研究結果より推測されます。

[1] T. T. M. Palstra et al., Phys. Rev. Lett. 55, 2727 (1985); M. B. Maple et al., Phys. Rev. Lett. 56, 185 (1986); W. Schlabitz et al., Z. Phys. B 62, 171 (1986).
[2] S. Takagi et al., J. Phys. Soc. Jpn. 76, 033708 (2007).
[3] H. Kusunose et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80, 084702 (2011).
[4] M. Jaime et al., Phys. Rev. Lett. 89, 287201 (2002).

本研究についてより詳しい内容は下記の論文をご覧下さい。
T. Yanagisawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 013601.

(also available on cond-mat/1211.7185)

Magnetic Anomaly in the SC phase of UBe13

Nov 21, 2012

We have performed precise dc magnetization measurements for a single crystal of UBe13 down to 0.14 K, up to 80 kOe. We observed a magnetic anomaly in the superconducting (SC) mixed state at a field, named HMag* (∼26  kOe, at 0.14 K), implying that UBe13 has a magnetically unusual SC state. We expect that the origin of the HMag* anomaly would be (1) unusual SC diamagnetic response, or (2) a peculiarity of the normal-state magnetization due to vortices in the SC mixed state.
For more information please see our paper: Y. Shimizu et al., Phys. Rev. Lett. 109 (2012) 217001.
本研究の背景について日本語による解説記事があります。強相関電子磁性1研究室の研究トピックス「重い電子系超伝導体UBe13の超伝導混合状態における磁気特性 」 をご覧下さい。

Bookshelf

Nov 03, 2012
<a href='https://phys.sci.hokudai.ac.jp/LABS/kyokutei/vlt/yanagisawa/diary/20111025.htm'>重い電子系若手秋の学校テキスト「超音波から観た多極子とラットリング」</a> <a href='https://phys.sci.hokudai.ac.jp/LABS/kyokutei/vlt/yanagisawa/eigo/'>レッツ英語(コラム)</a> <a href='https://phys.sci.hokudai.ac.jp/LABS/kyokutei/vlt/yanagisawa/fl/index.html'>Flat Land</a>
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