Ultrasonic Team (T. Yanagisawa, Hokkaido Univ,)    

Electric Quadrupolar Contributions
in Magnetic Phases of UNi4B

Apr 12, 2021
Researchers from Japan and the Czech Republic, together with scientists from the HLD, have succeeded in identifying that electric quadrupoles play an important role in the magnetic order of the honeycomb-layer compound UNi4B. The scientists showed that these quadrupoles maintain their degrees of freedom without ordering at the center of a magnetic vortex arrangement (left panel in the figure).

In this study, the cooperation partners combined ultrasound technique, which can sensitively detect orbital degrees of freedom, with the advanced high-magnetic-field generation equipment at the HLD and the High Field Laboratory for Superconducting Materials at Tohoku University. The researchers performed precise measure- ments of the electric quadrupoles derived from the orbital degrees of freedom in the vortex magnetic state of UNi4B. They observed strong correlations between the magnetic vortices and electric quadrupoles.

The elastic constants show large variations in magnetic-field regions where the vortex magnetic structure changes. This indicates that the quadrupole response evolves rapidly in magnetic field (right panels in the figure). Here, phase II represents a magnetic-toroidal dipolar order showing a vortex magnetic structure. The response of the quadrupoles depends strongly on the in-plane direction of the applied magnetic field. For H || [01-10], a phase V, which does not exist for H || [2-1-10], appears at high magnetic fields and low temperatures.

Further, the contour plot shows a significant difference in the elastic constant C66 for the two field directions, although there is no difference in the magnetization. From the blue and red contrasts in the ordered pha- ses, we can conclude that the electric quadrupoles play an important role in the vortex-like magnetic structure of this system, modifying the spin-reorientation process as well.

Figure: (Left panel) Crystal structure, magnetic vortices, and electric quadrupoles in UNi4B. Magnetic field-temperature phase diagram of UNi4B: (middle panel) the magnetic field is applied along the b-axis, (right panel) the magnetic field direction is along the c-axis. The color code indicates the changes of the C66 elastic constant.


These findings advance our understanding of the fundamental phe- nomena related to the interaction between quadrupolar degrees of freedom and magnetic vortices. This might provide a cornerstone for the realization of completely new quantum-information devices that control electronic degrees of freedom in solids in future applications.


For more information please see our paper: T. Yanagisawa, H. Matsumori, H. Saito, H. Hidaka, H. Amitsuka, S. Nakamura, S. Awaji, D. I. Gorbunov, S. Zherlitsyn, J. Wosnitza, K. Uhlířová, M. Vališka, and V. Sechovský, Phys. Rev. Lett. 126 (2021) 157201.

(also available on arXiv:2103.02391 [cond-mat.str-el])


Acoustic signature of the single-site quadrupolar
Kondo effect: finding the last missing piece of the puzzle

Aug 06, 2019

Abstract
A direct evidence for the a single-site two-channel (electric quadrupolar) Kondo effect is obtained by ultrasonic measurements on the diluted Pr compound Y_0.966 Pr_0.034 Ir_2 Zn_20 at very low temperatures down to 0.04 K. The elastic moduli (C11−C12)/2, corresponding to the Γ3(E)-symmetry electric-quadrupolar response, reveals a logarithmic temperature dependence in the low-magnetic-field region below ∼0.3 K, where non-Fermi liquid behavior in the specific heat and electrical resistivity have previously been reported. This logarithmic temperature variation manifested in the Γ3 quadrupolar susceptibility was the last missing piece of the puzzle to demonstrate this long-standing issue, since it had been theoretically predicted in 30 years ago.

For more information please see our paper: T. Yanagisawa et al., Phys. Rev. Lett. 123 (2019) 067201.

(also available on arXiv:1907.06284 [cond-mat.str-el])


日本語解説
「超音波で観る固体中の電子 〜30年来の謎「四極子近藤効果」を実証〜」

たくさんの電子を集めて冷やすと液体のようになる

「電子」は、我々の生活においてもっとも身近な素粒子です。しかし、固体中で電子が多数集まると、単一の電子とは異なる振る舞いを示します。金属中において電気の伝導を担う電子は、初等物理学では自由電子(理想気体模型)として扱われますが、強相関電子系と呼ばれる一部の化合物における伝導電子は、もはや自由では無く、流体モデルとして扱われます。そこでは電子間に様々な相互作用が働き、それぞれの電子は相互作用の衣をまとった準粒子とみなされ、その結果、電子間の相互作用が繰り込まれた電子の有効的な質量が通常の電子の質量の1000倍にも達する「重い電子」状態が現れます。このように強く相互作用する電子(フェルミ粒子)を記述する有効理論モデルは、1956年にソビエトの物理学者レフ・ランダウによって導入された概念である「フェルミ流体」として記述されます。

一方、「近藤効果」とは、金属中の伝導電子が不純物イオンの内部自由度を変化させる過程で生じる電子の多体効果です。その先駆けとなる理論研究は、1964年に日本人物理学者の近藤淳によって報告され [参考文献1]、現在では希土類化合物における半金属状態など多彩な物性を演出していることが知られています。上記の重い電子状態でも、近藤効果が本質的な役割を担っているのです。

 

30年来の謎「四極子近藤効果」とは?

1980年代に、上記の近藤効果を拡張した多チャンネル近藤効果が提案されました。ここでの多チャンネルとは、近藤効果で電子が用いる内部自由度が複数あることを意味します。

電子は磁石としての性質を担うスピン自由度と、電気としての性質を担う電荷・軌道自由度を持ちます。原著論文における近藤効果は、金属中の伝導電子と磁性不純物がそれぞれの電子のスピン自由度(チャンネル数は1)を用いて束縛状態を作ります。その次数を1つ上げた「2チャンネル近藤効果」では、スピン自由度に加え、局在電子の持つ軌道自由度に由来する異方的電荷分布である電気四極子自由度(チャンネル数は2)を用います。この現象は「四極子近藤効果」と呼ばれ、従来の近藤効果によるフェルミ液体状態から逸脱した挙動(非フェルミ液体状態)の発現が予言されました。この四極子近藤効果の理論モデル[参考文献2]は、主にウランを含む金属間化合物で見出された非フェルミ液体的状態を説明するために提案されました。しかし、放射性物質であり、国際的規制物資であるウランの取り扱いは難しく、またウランの価数が不確定であることや、ウランが持つ5f電子系特有の局在性・遍歴性の二面性があることから、理論的な解釈も難しいため、長年の研究にもかかわらず、四極子近藤効果の実証には至っていませんでした。特に、本現象の主役である電気四極子を直接的に捉える実験は、これまでほとんど行われてきませんでした。

図1  Pr3+(プラセオジム)イオンの局在的な電子が持つΓ3対称性の電気四極子が、等価な二つの伝導バンドの伝導電子が持つ電気四極子の成分により遮蔽される。

  

失われたパズルのピースを求めて

その間、四極子近藤効果の新たな候補物質を求めて、世界中で物質探索が行われました。近年、共同研究者の鬼丸ら(広島大学)は、4f2配位をとるPr(プラセオジム)を含む立方晶カゴ状化合物の純良単結晶の育成に成功し、この物質が四極子近藤効果の候補物質であることを提案しました。鬼丸らは、結晶内のPrの4f電子の基底状態が有するEg(Γ3)対称性の電気四極子自由度が絶対温度0.11ケルビンで凍結(四極子秩序)し、さらに0.05ケルビンで超伝導を示すことを発見しました。さらに、四極子秩序の近傍で、電気抵抗率や比熱が通常の金属とは全く異なる非フェルミ液体的挙動を示すことから、同化合物のPrを非磁性のイットリウム(元素記号: Y、原子番号39)によって希釈する系統的研究を行い、その非フェルミ液体状態が30年前に理論提案されていた四極子近藤効果によって説明できる可能性を指摘しました。Prはウラン系に比べて取り扱いに関する制約が少なく、4f電子の基底状態もはっきりしているため、「失われたパズルのピース」である、電気四極子の直接観測を実行する準備が整ったわけです。

 

図2  超音波を固体中に入射することで誘起される弾性波の概念図。弾性波のスナップショットを見ると、歪み・回転からなる格子変形が局所的に生じており、それらが作る静電場と同じ対称性を持つ電気四極子が結合する。

超音波で電子を観る?

我々は、電気四極子の応答を直接観測するために「超音波」を用いました。固体中に入射された超音波は弾性波として固体中を伝播し、結晶格子を歪ませます。局所的にその歪みは「歪み場」として捉えることができます。その歪み場は同じ対称性を持つ異方的な局所電荷分布である「電気四極子」と結合します。すなわち、弾性率を精密に測定することで、固体中の電子が持つ電気四極子自由度の応答を感受率として観測できます。本研究では広島大学で作製された試料の中から、PrイオンをYによって3.4%まで希釈したY0.966Pr0.034Ir2Zn20の純良単結晶を選び、超音波実験に用いました。このような希釈系ではPrイオンは相互作用による影響を受けることなく、単一イオンの応答を観測できます。一方、磁性を担うPrイオンは、依然として16個のZn原子が作るカゴに内包されており、4f電子が多数の配位子に囲まれている状況により伝導電子との混成効果は増強されます。


図3  カゴ状化合物PrIr2Zn20の結晶構造。4f2配位Pr(プラセオジム)イオンは、Zn(亜鉛)が作る原子のカゴに内包されている。このPrの大部分を非磁性のY(イットリウム)イオンに置換し、Prが孤立した状況を創り出した。


本研究では横波弾性率(C11−C12)/2の温度変化を精密に測定しました。この横波弾性率は、立方晶系におけるEg(Γ3)対称性を持つ電気四極子の感受率として理解できます。絶対温度2 ケルビン以下でその温度変化がキュリー的な減少(温度に反比例した軟化)を示すことから、希釈された3.4%のPrが依然としてPr 100%の母物質と同じEg(Γ3)対称性の結晶場基底状態を保持していることが証明されました。 


さらなる低温へ

一方、立方晶系が非フェルミ液体的な挙動を示す0.3ケルビン以下の「極低温」領域での四極子近藤効果を検証するには、特殊な冷凍機と強力な磁場を用いる必要がありました。そこで、ドイツ・ヘルムホルツ研究センターのドレスデン強磁場研究所との国際共同研究により、ヘリウム3-ヘリウム4希釈冷凍機と超伝導磁石、超音波位相比較法測定装置を組み合わせることで、強磁場下における0.04ケルビンの極低温での超音波観測を実現しました。弾性率の温度変化の温度軸を対数で表示しすると、弾性率が直線に乗る、すなわち+logTに比例した温度依存性を示すことがわかります。この特徴的な温度依存性が現れる温度・磁場領域は、比熱・電気抵抗率が非フェルミ液体状態を示す領域と同じであり、四極子近藤効果の理論予想[参考文献2]と一致します。以上のことから、本研究の超音波実験は、四極子近藤効果による四極子の応答を世界で初めて直接観測したものであり、四極子近藤効果を実験的に実証したものであると結論できます。[参考文献3]

 

図4  希釈系(Y1-xPrx)Ir2Zn20の横波弾性率(C11−C12)/2の温度変化と極低温領域に現れる対数的温度依存性。縦軸は物質の「硬さ」に対応し、温度を下げると(グラフの左側に行くほど)、3ケルビンまで徐々に硬くなっていた物質が、それ以下で急激に「柔らかく」なっていることがわかる。内挿図は格子振動(フォノン)の影響によるバックグラウンドを差し引いたデータ。極低温で直線に乗る(+logTに比例した温度依存性を示す)ことが判る。


今後の展開

電気四極子やさらに高次の多極子が示す新規現象は、将来の機能性デバイスや量子情報素子開発への応用が期待できます。今回実証されたのはその基礎となる現象であるため、その物理をしっかりと構築することが重要です。今後は、希釈濃度を変えた試料やその他の候補物質に対する超音波を用いた系統的な研究により、四極子近藤効果の直接的証拠をさらに追求する必要があります。特に、当初の理論で提案されていたウランを含む金属間化合物においても、立方晶系と同様に単サイトの四極子近藤効果の傍証が見つかっているため、本研究で採用した超音波測定の手法を応用して、その機構解明を目指しています。

書いた人


(左から):山根悠(広大先端)・柳澤達也(北大理)・鬼丸孝博(広大先端)


参考文献

[1] J. Kondo, Prog. Theor. Phys. 32, 37 (1964).

[2] D. L. Cox, Phys. Rev. Lett. 59, 1240 (1987).

[3] T. Yanagisawa et al. , Phys. Rev. Lett. 123, 067201 (2019).


A New Technique for High Frequency
and High Pressure Ultrasonic Measurements

Aug 24, 2016

A new technique has been developed which has allowed high-frequency ultrasonic measurements up to 323 MHz under a pressure of ~1.3 GPa (~ten thousand atmospheres) at very low temperatures (down to 1.5 K) to be performed for the first time. Installing a coaxial cable into a high pressure cell is a significant challenge, since the coaxial tube could act as vent to relieve the pressure. To overcome this technical difficulty, the authors installed a pair of one-side covered ultra-thin semi-rigid coaxial cables with a diameter of 0.33 mm into a hybrid piston-cylinder cell. The ‘ultrasonic method’ is one of the essential tools for investigating the electronic state via the electron-phonon interaction, while ‘pressure’ is an important parameter that allows the electronic correlations to be ‘tuned’ by controlling the lattice parameter of the crystals. By merging these technologies, the authors’ experiments revealed the exotic behavior of the 4f electrons in the ground state of SmOs4Sb12, which transform from being delocalized at ambient pressure to being localized at high pressures with a crossover pressure of approximately 0.7 GPa. Such a traditional but “nonstandard” technique not only provides special insight into this extraordinary compound, but also represents a new milestone in the development of ultrasonic measurement methods in solid-state physics.

For more information please see our paper: S. Mombetsu et al., Phys. Rev. B 94 (2016) 085142.

(also available on arXiv:1608.01066 [cond-mat.str-el])


Crystalline Electric Field and Kondo Effect in SmOs4Sb12

Mar 18, 2016

近年、複数の4f電子を持つ希土類元素を含む金属間化合物において、電子間の強い相互作用により伝導電子の有効質量が増大する「重い電子状態」が発見され、その性質や発現機構が問題になっています。重い電子状態は、CeやYbの化合物についてはよく研究されており、理解が進んでいます。それに対し、PrやSm、Euなどを主体とした化合物については、実験的な傍証が少なく、理解が進んでいるとは言い難い状況です。一般に、原子番号が大きい希土類ほどフェルミエネルギーから深い位置に4f準位を持つため、伝導電子と4f電子間の混成(c-f混成)による重い電子状態を形成しにくいと考えられています。一方で、多数の配位子が希土類イオンを取り囲むカゴ状構造を持つ場合、混成する経路が多くなり、強いc-f混成効果が期待できます。実際に、PrやSmを含むカゴ状化合物において、風変わりな重い電子状態が発見されております。例えば、Smの重い電子系カゴ状化合物では、重い電子系Ce化合物にないような、磁場に鈍感な重い電子状態と磁気秩序が発見され、注目が集められています。さらに、カゴ状化合物では強いc-f混成効果だけではなく、結晶場の擬縮退による多極子自由度や、ゲスト希土類イオンの非調和振動(ラットリング)が生じ、それらが低温物性に大きな影響を及ぼすと考えられています。
本研究で取り上げる充填スクッテルダイトSmOs4Sb12は、比熱から見積もられる電子比熱係数が820 mJ mol-1 K-2と大きく、重い電子状態を形成していると考えられています。この電子比熱係数の値は8 Tの外部磁場中でもほとんど変化せず、磁場によって抑制されるCe化合物の重い電子状態とは対照的です。この磁場に鈍感な重い電子状態の発現機構としては、ラットリングに起因した局所電荷揺らぎや価数揺らぎを起源とするものが理論提案されています。また、本系はTC ~ 2.5 Kで弱い強磁性モーメントを伴った相転移を示します。この低温秩序相における強磁性については、遍歴強磁性の可能性と、多極子秩序に伴う寄生モーメントの可能性が指摘されており、争点となっています。
4f電子と伝導電子のかかわる複雑な多体量子系を理解するためには、4f電子系が低温で持ちうる多極子自由度を規定する結晶場基底状態についての情報が重要です。しかし、本系においては2つの結晶場模型が提案されており、未だ決着が付いておりません。また、本系の低温におけるc-f混成効果を4f電子の局在モーメントの応答から議論した例はなく、c-f混成の低温物性への影響は明らかになっていませんでした。そこで、本研究では、SmOs4Sb12の重い電子状態の形成にc-f混成効果とラットリングによる電荷揺らぎのどちらが本質的なのかを明らかにすることと、低温秩序相における多極子自由度の寄与を調べることを目的とし、局在電子系の四極子モーメントの応答や局所電荷揺らぎを観測できる、超音波測定をパルス磁場中、ならびに、静水圧力下で行ないました。
一般に、強いc-f混成がある場合、低温・低磁場では局在電子模型による結晶場準位の決定は困難です。そこで、本研究では、パルス強磁場を用いた超音波弾性定数測定により、c-f混成のエネルギースケールを越えた領域での弾性応答から結晶場基底状態の決定を試みました。本研究のパルス磁場中弾性定数測定では、4.2 Kにおいて弾性定数C44が10 T以下の低磁場で減少し、高磁場側で増大する振る舞いが観測されました。また、磁場印加に伴い弾性定数C11が増大する振る舞いが観測されました。これらの弾性応答には、結晶場基底状態の対称性に関する明瞭な選択則が現れており、Γ67四重項基底状態を強く示唆します。さらに、ゼロ磁場の弾性定数の温度変化から歪み-四極子結合定数を決定し、それを用いて弾性定数の磁場変化の定量的な計算を行ないました。この局在模型を用いた計算の示す変化量が、実験結果の弾性定数C44の10 T以上の変化量とほぼ一致したことから、少なくとも20 T以上での高磁場領域で局在性が回復していることが示唆されます。また、低磁場側での計算結果との不一致は、低温・低磁場では局在模型が適用できず、c-f混成が支配的であることを改めて裏付ける結果です。

Our ultrasound results obtained in pulsed magnetic fields show that the filled-skutterudite compound SmOs4Sb12 has the Γ67 quartet crystalline-electric-field ground state. This fact suggests that the multipolar degrees of freedom of the Γ67 quartet play an important role in the unusual physical properties of this material. On the other hand, the elastic response below ≈20 T cannot be explained using the localized 4 f-electron model, which does not take into account the Kondo effect or ferromagnetic ordering. The analysis result suggests the presence of a Kondo-like screened state at low magnetic fields and its suppression at high magnetic fields above 20 T even at low temperatures.

For more information please see our paper: S. Mombetsu et al., J. Phys. Soc. Jpn. 85 (2016) 043704.

(also available on arXiv:1603.09069 [cond-mat.str-el])

Gamma 3-type Lattice Instability
and the Hidden Order of URu2Si2

Nov 30, 2012

URu2Si2 は体心正方晶 ThCr2Si2 型(空間群 No.139, I4/mmm)の結晶構造をとり、 To = 17.5 Kにおいて「隠れた秩序(Hidden Order)」と呼ばれる、秩序変数・秩序波数が共に未解明の相転移を示す重い電子系化合物です[1]。また、本系はさらにTc = 1.4 Kで異方的超伝導転移を示すことも知られています。隠れた秩序において、零磁場μSRや29Si-NMR実験では To以下で顕著な内部磁場が観測されないことから、内場が零か、もしくはあっても極微少であることがわかっています[2]。そのため、これまで数多くの隠れた秩序変数の候補が提案されていますが、その中の有力な候補として非磁性の電気多極子が挙げられます[3]。
一方、URu2Si2 の隠れた秩序相内(T ~ 1.5 K)でc軸に磁場を印加した場合、35 Tから3段のメタ磁性転移が起こり、c軸磁化率が増大することがこれまでにわかっています[4]。本研究ではドレスデン強磁場センターにあるパルスマグネットを用いて最大磁場68.7 Tのパルス磁場下で超音波測定を行い、強磁場下における弾性応答の観点からURu2Si2 の低温電子状態を調べました。一般に、5f 電子状態を局在的に扱う場合、弾性応答は局在5f電子が持つ電気四極子の応答として理解できます。一方、5f 電子を遍歴的に扱う場合、弾性応答は電子格子相互作用を通じてバンドの状態を反映します。このように超音波によって試料中に誘起される歪み場は磁場と直交するため、磁場中での超音波測定は上記の電子状態を分光学的に調べる上で強力な実験手法と言えます。
T = 1.5 Kにおいてc軸方向にパルス磁場をかけて弾性定数(C11C12)/2を測定した結果、メタ磁性転移近傍で(C11C12)/2は階段状の異常を示しつつ、50 Tまで約0. 7 %増大しました。その変化量は零磁場下の温度変化において120 K付近から最低温度までに生じる緩やかな弾性定数の減少(ソフト化)の大きさとほぼ一致するように見えます。一方、c軸磁化率も (C11C12)/2と良く似た磁場・温度依存性を示すことから、それらの起源が共通の根を持っている可能性が示唆されます。c軸磁化率と(C11C12)/2の温度依存性において低温で共通して生じる減少傾向は、5f電子の混成効果と結晶場効果の複合によって説明できると考えられますが、遍歴性と局在性の二重性を持つ5f電子系を記述するための基本描像が未だ定まっていないため、その判別は難しいところです。いずれにせよ、 (C11C12)/2モードは対称性を低下させる斜方晶歪み(Γ3: 基底関数x2y2)に対応することから、URu2Si2ではΓ3対称性の格子不安定性を伴う電子状態が低温で形成されており、c軸磁場で生じるメタ磁性転移によって隠れた秩序が壊れるのと同時にその電子状態から、比較的「軽い」電子状態で尚かつ格子不安定性が抑制された状態に回復していることが、本研究結果より推測されます。

[1] T. T. M. Palstra et al., Phys. Rev. Lett. 55, 2727 (1985); M. B. Maple et al., Phys. Rev. Lett. 56, 185 (1986); W. Schlabitz et al., Z. Phys. B 62, 171 (1986).
[2] S. Takagi et al., J. Phys. Soc. Jpn. 76, 033708 (2007).
[3] H. Kusunose et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80, 084702 (2011).
[4] M. Jaime et al., Phys. Rev. Lett. 89, 287201 (2002).

本研究についてより詳しい内容は下記の論文をご覧下さい。
T. Yanagisawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 013601.

(also available on cond-mat/1211.7185)

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