トピックス

超伝導ゆらぎ現象は、超伝導転移前の温度における常伝導状態中にクーパー対の芽のような短距離の超伝導状態が生じる現象であり、 強い電子相関によって増大すると考えられています。 過去には、銅酸化物高温超伝導体において超伝導ゆらぎ現象が盛んに調べられてきましたが、超伝導転移温度直上で擬ギャップ状態が現れるため、 純粋な超伝導ゆらぎ現象の観測は困難でした。 有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brは超伝導転移温度直上でフェルミ液体状態と呼ばれる金属的振る舞いを示すため、 超伝導ゆらぎの詳細な研究に最適な物質です。 これに注目し、超伝導ゆらぎ状態を13C-NMR分光法により観測しました。

[PRB 89, 165141 (2014).のFIG1]

図は核スピン格子緩和時間T1測定を異なる複数の磁場で行った結果です。 8 Tにおいては20 K以下では超伝導が壊されてFermi液体状態になっています。 しかし低磁場においては磁場を面に垂直に印加した場合は14 K、面に平行に印加した場合は13 Kから1/T1Tの減少が観測されました。 これはNMRシフトの減少する温度から決めたTc=10 K(点線)と比較しても明らかに高い温度から減少しています。 14 K付近から減少する1/T1Tの振る舞いが、強い磁場を印加することによってT1Tが一定であるFermi液体状態になることから、 この温度領域での1/T1Tの減少は超伝導ゆらぎであると考えられます。 つまり超伝導ゆらぎによって準粒子の状態密度が減少することを初めて実験的に明らかにしました。

以上の結果は“Microscopic observation of superconducting fluctuations in κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br by 13C NMR spectroscopy” Phys. Rev. B 89, 165141 (2014) に公表しました。