(TMTSF)2PF6は有機物で初めて超伝導を示した物質として知られています。 しかし、その発生機構は未だ解明されていない部分も多く、現在活発に研究されています。 超伝導が発生する際には、電子間に引力が働くことが必要であり、その引力の原因が(TMTSF)2PF6においては 電子の作る反強磁性的な磁気揺らぎではないかと言われてきました。
近年、(TMTSF)2PF6における電気抵抗率の非フェルミ流体的な挙動と超伝導転移の消失の間には 強い相関があることが報告されており[Phys. Rev. B 80, 214531]、その原因として反強磁性的な揺らぎが示唆されています。 磁気的な性質を調べる際にNMRは大変有効な手段と言え、実際、様々な核種を用いて(TMTSF)2PF6におけるNMR測定は行われていました。 しかし、従来の(TMTSF)2PF6ではTMTSFの中心13C核種においてPake doubletと呼ばれる現象が生じ、 13C-NMRで観測されるスペクトルが複雑になります。 その結果、系統的な13C-NMR測定が行われていませんでした。 今回、我々は非フェルミ流体的な挙動と反強磁性的な揺らぎの相関を調べるために、 新たな合成方法でTMTSF中心炭素の片側を13Cに置換した(TMTSF)2PF6を作成し、 13C-NMR測定を行いました。 この片側13C置換(TMTSF)2PF6ではPake doubletが生じず、単純なスペクトルから、精度の高い13C-NMR測定ができます。
右図は実験結果で、超伝導転移温度Tcと反強磁性揺らぎの大きさをプロットしたものです。 Cの値が反強磁性揺らぎの大きさに対応しています。 反強磁性揺らぎとTcは共に圧力増加に従い減少しており、二つの間に強い相関があることが示唆されます。 今回の実験から、我々は反強磁性気揺らぎの消失とフェルミ流体的な挙動の発現には強い相関があることを示しました。
以上の結果は ”Correlation between non-Fermi-liquid behavior and anti-ferromagnetic fluctuation in (TMTSF)2PF6” Phys. Rev. B 84, 045123 (2011).に公表しました。