X線を用いた物質評価
アーク炉やプラズマジェット炉で作製した試料をX線を用いて評価します。評価の手法はラウエ法、粉末ディフラクトメーター法、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)です。 ・ラウエ法 図1のようにX線を単結晶試料に当てて、散乱したX線でフィルムを感光させます。このときブラッグの反射条件を満たしてX線が強めあうと図2のように黒い斑点がフィルムに現れます。この斑点の対称性(4回対称、鏡映面等)は結晶の対称性を反映しているので結晶面の対称性、軸方向が分かります。
図1 ラウエ法の概念図(背面反射法) |
図2 ラウエ写真の例 |
図3 粉末ディフラクトメーター法の概念図
・EPMA 試料に電子線を照射すると図5のような反応がおこります。この中の特性X線いうものは波長が原子によって決まっているX線です。電子線を照射したときに飛び出してくる特性X線の波長のスペクトルを調べることで電子線の当たった領域の構成元素と割合が分かります。図4 電子線を試料に照射したときの反応
MPMS用インデンターセルによる静水圧下DC磁化測定
図1のMPMS用インデンターセルを用いることで高圧下(~3 GPa)DC磁化測定を行うことができます。図1 MPMS用インデンターセル
試料を圧力セルに入れて測定すると、試料の磁化とBack Ground である圧力セルの磁化を足した磁化が測定されます。そこで試料のみの磁化を得るためには一般的に図2のようにBack Groundの磁化を差し引く方法が用いられます。MPMSは電圧波形をフィットして磁化を求めていますが圧力セルを測定した時の電圧波形は図3のように高温で乱れてしまいます。フィットして磁化を正確に求めることがでないので、図2の方法では高温における試料の磁化を求めることができません。
図2 磁化の差し引きの様子 図3 試料と圧力セルの高温での電圧波形
そこで私たちの研究室では図4のように電圧波形の段階で差し引きを行い、それをフィットして磁化を求めています。この方法を用いれば電圧波形の乱れる高温でも上手くフィットでき磁化を正確に求めることが可能になります。図4 電圧波形の差し引きの様子
図5はMPMS用インデンターセルと電圧波形の差し引きを用いて測定したURu2Si2の高圧下における磁化率の温度依存性です。この試料に対しては報告例のない最大圧力1.87 GPaの精密磁化測定に成功しています。図5 URu2Si2の高圧下における磁化率の温度依存性
インデンターセルを用いた高圧下電気抵抗・交流帯磁率測定
図1 インデンターセル概観
インデンターセルの簡単な模式図を図2に示しています。中心に穴の開いたNi-Cr-Al合金製ブロック(hole piece)にあけた穴に液体の圧力媒体を満たし、先端部分に試料を取り付けたインデンター(NMWC:非磁性タングステン鋼)を差し込みます。この状態からプレス機で加圧することによって、hole pieceの穴を変形させて圧力を発生させる仕組みです。圧力はロックナットを締めることで保持しています。図2 インデンター型圧力セルの模式図
電気抵抗測定には4端子法を用いています。端子付にはスポット溶接や銀ぺーストなどをもちいています。(図3)非常に細かい作業のため写真のように顕微鏡を見ながらの作業となるため学生たちもはじめは苦労しますが 、一か月ほどで誰でもセッティングができるようになります。(図4)
図3 スポット溶接をしているところ |
図4 |
図6は私たちの研究室の学生が手作りした「巻き線機」です。手作り感たっぷりですが、1mm以下のコイルを非常に美しく巻くことができる優れモノです。
図5 インデンターセルに内蔵する微小コイル |
図6 ホームメイド「巻き線機」 |
緩和法比熱測定
熱緩和法とは、試料に与えていた熱を切った際の試料温度の緩和現象から比熱を求める実験手法です。具体的には、試料の回りに精密に温度コントロール可能な熱浴T0を作り、試料と熱浴との間を比較的弱い熱伝導パス(熱伝導度KW)で結びます。(図1)試料部には小型の温度計とヒーターを装着し、このヒーターに通電する事で試料温度を熱浴よりΔT だけ高い定常状態で保持しておきます。その後、一気にヒーターを切ると熱伝導パスを通じて試料から熱浴に熱が逃げて行きます。この温度緩和過程は通常指数関数型になり、その時定数を解析する事により試料部の比熱を求めます。 この実験手法により、わずか数mg程度の小さな試料の比熱を広い温度範囲かつ強磁場中で測る事が出来ます。比熱からは物質のエントロピーを見積もる事ができて、系のもつ微視的自由度の振る舞いを予想できます。比熱は物質の性質を理解する上で最も重要な物理量のひとつです。我々の研究室では、Heliox :0.36 [K] < T < 200 [K] 、 B < 12 [T] (図2)
PPMS :2 [K] < T < 380 [K] 、 B < 9 [T] (図3)
これらの装置により比熱測定を行っています。図4にPPMSでの実際の測定結果を示します。
図1 |
図2 |
図3 |
図4 |
[Method] 超高圧における物性研究
関連項目
インデンターセルによる高圧下電気抵抗・AC磁化測定
MPMS用インデンター&ピストンシリンダセルによる静水圧下DC磁化測定
ピストンシリンダセル断熱法比熱測定
極限科学には歴史的、思想的な背景がある。それは人間性の本質そのものに根源を持っている。一言でいえば、未知なものに一歩踏み込んでそれを知ろうとする好奇心である。(伊達宗行:極限の科学(講談社))
モノを極限環境においたとき、普段の常識では考えられない変化をすることがあります。例えば、酸素が金属になりその果てには超伝導を起こしたり、シリコンのような良く知られた絶縁体が金属になったりします。ここで極限環境とは極低温・強磁場・超高圧、もしくはこれらを組み合わせた複合状態のことを指します。私たちの研究グループでは、強相関電子系と呼ばれる物質群を極限環境下におくことで、新奇な相転移現象(例えば圧力誘起超伝導)の探索などを行っています。
図1
ここでは簡単に高圧発生装置について紹介します。図 2 にいくつかの高圧セルの特徴をまとめています。一般に高い圧力を発生させるには試料空間の大きさが犠牲となり、目的に応じて装置を使い分けることになります。最も広く使われているのは「ピストンシリンダーセル」であり、最大発生圧力は約2.5 GPa(25000気圧)です。この装置は、試料空間が大きいためほとんどの物性測定が可能なことがメリットです。私たちの研究グループでも様々な測定に使用しています。(下記参照)一方で、最大発生圧力の観点では他の追随を許さないのが「ダイヤモンドアンビルセル」です。この装置は試料空間が極端に狭いためバルク測定が困難であるし、取り扱いも非常に難しいのですが、その達成圧力は100 GPa(百万気圧!)を超えます。現在では地球の中心の圧力(360 GPa)に近い高圧力が研究室単位でも実現できるようになり、地球科学の分野でも応用されたりしています。残念ながら現在、我々の研究グループでは使用しておりませんが、将来的な導入を検討しています。図2
私たちの研究グループで行っている高圧実験の最大の特徴は「インデンターセル」と呼ばれている高圧セルを用いていることです。これは岡山大学小林教授のグループで開発された特殊な圧力セルで、特徴としては
1. ピストンシリンダー以上の高圧発生可能 (最大5 GPa(50000気圧))
2. 精密磁気測定に可能な試料空間を確保
3. 小型であるために希釈冷凍機やPPMSに取り付け可能
などが挙げられます。現在、インデンターセルを用いた研究が可能なのは私たちのグループを含めても世界で数グループしかありません。