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重い電子系超伝導体UPt3 の極低温磁化測定

 セリウムやウラン含む金属化合物の中には、電子が通常の金属の電子の100~1000倍の質量を持っているように見える物質があり、これらの物質は「重い電子系化合物」と呼ばれています。この重い電子系化合物は、低温で比熱や磁化率が大きく、多くの場合、強磁性や反強磁性というような様々な磁性を示します。これらの重い電子の起源は4f、5f電子による強いクーロン斥力にあると考えられていますが、この重い電子系化合物の中には、さらに低温で(強いクーロン斥力にもかかわらず)電子がクーパー対をつくり、超伝導になるものがあります。この超伝導は通常の(BCSタイプの)超伝導とは性質が異なる「異方的超伝導」となります。この異方的超伝導体の一例として、「スピン三重項超伝導体」や「多重超伝導相」などが挙げられます。


 通常の超伝導体では、上向きスピンを持つ電子と下向きスピンを持つ電子からクーパー対が形成されます(スピン一重項超伝導体)。磁化率が大きい物質の場合、非常に強い磁場中ではスピンが揃うほうがエネルギー的に安定となるので、磁場中ではスピンを揃えようとする効果と超伝導との競合(常磁性効果)が起こります。このため、超伝導が破れる磁場(上部臨界磁場、Hc2)が低温で抑制されたり、超伝導状態での熱平衡磁化曲線が上部臨界磁場で切り立った形になります。一方、スピン三重項の超伝導体では、同じ向きのスピンがクーパー対をつくるため、磁場方向とスピン方向が同じ場合、常磁性効果は起こりません。


 UPt3は典型的な重い電子系超伝導体のひとつです。この超伝導体は、低温低磁場相(A相)、低温高磁場相(B相)、高温相(C相)といった3つの異なる超伝導状態をもつ異方的超伝導体です。その熱平衡磁化曲線の超伝導成分を図1に示します(この磁化曲線は私達が独自に開発したキャパシタンス式ファラデー磁力計で測定しました)。内挿図には全体の磁化曲線が示されています。白矢印で示した磁場でB相からC相への相転移に伴う磁化の「折れ」が見られます(私達のグループが磁化曲線のこのような異常を初めて発見しました)。また、黒矢印の磁場(Hc2)で超伝導が壊れます。常磁性磁化率が小さい六方晶c軸方向の磁化曲線(図中でH//cと示されています)は、Hc2直下で非常に切り立った形をしているのに対し、常磁性磁化率が大きいc面方向の超伝導磁化曲線(図中で H⊥c と示されています)はそのような振る舞いが見られず、なめらかです。この様な振る舞いはスピン一重項超伝導体では起こり得ず、UPt3がスピン三重項の超伝導体であることがわかります。


図1 キャパシタンス式ファラデー磁力計を用いた極低温精密磁化測定によって得られたUPt3単結晶の熱平衡磁化曲線の超伝導成分


Posted at 22:11 in Research|




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https://phys.sci.hokudai.ac.jp/LABS/kyokutei/vlt/research/UPT3.
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