統計力学や超伝導・超流動の理論における基礎的問題を,ファインマン図形やグリーン関数など,場の量子論的手法を用いて研究しています。最近の研究成果を以下にまとめます。
超伝導 | 超流動 | 非平衡統計力学
- 第二種超伝導体の上部臨界磁場Hc2に対する
第一原理計算
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T. Kita and M. Arai: Phys. Rev. B 70 (2004) 224522;
M. Arai and T. Kita:
J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 2924
]
超伝導現象は,ある臨界温度 Tc 以下で電気抵抗が消失する現象で,低温物理学の開拓者であるオネスにより,1911年に水銀で発見されました。この現象の主役である電子は,上記の「超流動」の項で説明したフェルミ粒子であり,一粒子状態への凝縮は起こりえません。そのため,超伝導は,量子力学成立後も長く謎として理論家の挑戦を拒みつづけました。そして,ようやく発見から半世紀近く経った1957年に,バーディーン・クーパー・シュリーファー(Bardeen-Cooper-Schrieffer あるいは BCS)により明快な理論的説明が与えられたのです。このBCS理論の要点は,フェルミ粒子間に何らかの原因で引力が働けば,ある温度 Tc 以下で二粒子束縛状態を形成して「ボゾン化」し,「ボーズ・アインシュタイン凝縮」するというものです。電気抵抗の消失も,凝縮した粒子の集団が同一位相で運動するものとして理解できます。ボーズ粒子系の「ボーズ・アインシュタイン凝縮」との違いとしては,束縛状態の半径が平均電子間距離に較べてはるかに大きいこと,束縛状態をつくり「ボゾン化」するのと「超伝導(超流動)性」を示すのが同時に起こること,などが挙げられます。
さて,超伝導体は,外部磁場 H への応答の違いにより,第一種と第二種に分類されます。第一種超伝導体では,磁場は超伝導体内部から排除されます。この現象を,発見者の名前にちなんで,「マイスナー効果」と呼びます。一方,第二種超伝導体においては,条件Hc1 < H < Hc2が満たされる場合に磁場が超伝導体内部に侵入し,「アブリコソフ格子」と呼ばれる「量子化された磁束」の格子を形成します。ここに現れたHc1とHc2は,第二種超伝導体を特徴づける基本的物理量で,それぞれ下部臨界磁場・上部臨界磁場と呼ばれます。
このような基本的重要性をもつ物理量であるにもかかわらず,上部臨界磁場Hc2の定量的理解はあまり進んでいませんでした。Hc2は,不純物濃度が低いクリーンな系において,フェルミ面の形状に大きく依存します。このことは,1960年代半ばから知られてきました。従って,Hc2を定量的に理解するには,第一原理電子構造計算から得られるフェルミ面を用いるのが最適であると予想されます。実際,このような計算は,バトラー により,立方対称のクリーンな第二種超伝導体であるNbに対して行われ,実験との非常に良い定量的一致が得られました(1980年)。しかし,他の物質に対する同様の計算は皆無で,特に,より対称性の低いフェルミ面や異方的エネルギーギャップを持つ場合については,計算方法も確立していませんでした。
そこで,上記の第一論文では,任意のフェルミ面・エネルギーギャップ・不純物濃度に対して適用可能なHc2方程式を導出しました。この方程式は,第一原理電子構造計算から得られるフェルミ面を用いたHc2の微視的計算を可能にし,Hc2の定量的理解を飛躍的に高めるものと期待されます。次に,第二論文では,この方法をNb, NbSe2, およびMgB2に適用し,局所密度汎関数法から得られたフェルミ面を用いてHc2を計算して,実験との非常に良い定量的一致を得ました。特に,NbSe2で観測される転移温度近傍でのHc2の下凸の振る舞いが,フェルミ面の形状効果として理解できることを明らかにしました。この研究は,物質・材料研究機構の新井正男氏との共同研究です。
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