スピン密度波転移の磁場依存性

 低次元有機導体(TMTSF)2ClO4は24K付近にClO4-アニオンの配向秩序転移温度をもち、 この温度の近傍を急冷するとおよそ6Kで金属相からスピン密度波(SDW)相に転移することが知られている。この急冷状態の(TMTSF) 2ClO4におけるSDW転移温度(TSDW)の磁場依存性を電気抵抗の測定により調べた。 図1に様々な磁場における電気抵抗の温度依存性を示すが、転移温度は磁場が増大するにつれて増大していることがわかる。 図2は二つの異なる冷却速度におけるTSDWの磁場依存性である。TSDWは磁場が増大するにつれてほぼ磁場の2乗に比例して増大し、 比例係数はTSDWが低いほど大きくなる。これらの振舞いはフェルミ面の不完全なネスティングにより抑制されたSDW状態が、 磁場により系の1次元性が増すことにより回復するとして定性的に説明される。このとき平均場理論の範囲内で弱磁場におけるTSDWの 増加の割合は磁場の2乗に比例し、その比例係数はTSDWが低いほどつまりはimperfect nesting energyが大きいほど大きくなるが、 このことは実験結果と一致している。急冷状態の(TMTSF)2ClO4のTSDWが磁場によって大きく増大したことは、 このSDW相がフェルミ面のネスティングの不完全さにより大きく抑制された状態であることを示している。

図4
図1
図5
図2

擬一次元有機導体(TMTSF)2PF6における スピン密度波転移の磁場依存性と小周期振動

擬一次元有機導体(TMTSF)2PF6における磁場誘起スピン密度波転移と小周期振動

擬一次元有機導体(TMTTF)2Brにおけるスピン密度波転移