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β''-(BEDT-TTF)3Cl2⋅2H2Oは常圧で金属-絶縁体転移し、 圧力下では低温で超伝導を示す有機導体です。 この物質の超伝導は絶縁体相に隣接して起こることから、 超伝導のペアリンングメカニズムに絶縁体相の物性が関係していると考えられ、絶縁体相の詳細が注目されています。 我々は13C-NMRを用いてこの物質の絶縁体相と、超伝導直上の金属相の物性について明らかにしました。

絶縁体層

この物質のフェルミ面構造が1次元的でネスティングを起こしやすいことから、 CDW(charge density wave)が形成され、絶縁体化していると予想されていました。 一般的に、CDWは結晶構造の変化を伴います。 しかし後のJ. Gaultier らによるX線構造解析の実験からは金属-絶縁体転移において結晶構造の変化は確認できませんでした。 さらにT. Yamamotoらによる光学測定からは、オフサイトクーロン反発を起源とするCO(charge order)が絶縁体相で形成されている可能性が示唆されました。 そこで我々はNMR測定を行い、得られたスペクトルの構造から以下の2つを明らかにしました。

  • 絶縁体相ではCDWではなく対称性の低下を伴うCOが形成されていること
  • CO状態で不均化したサイト上の電荷はそれぞれおよそ+0.4e:+0.6e:+1.0eで、その存在比が2:3:1であること

超伝導直上の金属相

T. Yamamotoらによるラマン散乱の実験は、金属-超伝導転移が起こる圧力においても室温では電荷が均一で、 低温では電荷不均一が存在することを示しました。 そして我々のNMR測定で得られたスペクトル(図1)と縦緩和時間(T1:図2)からは、 1.6 GPa以上の圧力印加により突然スピンギャップが消失すること、さらに超伝導が起こる圧力においても温度変化によって電荷の不均化は変化することがわかりました。 これら結果は室温から超伝導転移温度に近づくにつれて電荷の不均化が発達していることを示しています。 したがって、この物質における超伝導は電荷不均化と共存している可能性があります。

以上の結果は"13C-NMR studies of the paramagnetic and charge-ordered states of the organic superconductor β''-(BEDT-TTF)3Cl2⋅2H2O under pressure" Phys. Rev. B 84, 035105 (2011).に公表しました。