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有機超伝導体のκ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2はで10 K以上で超伝導転移(Tc = 10.4 K)をする物質として注目されてきた。しかし、100 K以上の温度領域で電気伝導度が半導体的な挙動を示し、その起源については明らかになっていない。我々は、この100 K付近での振る舞いの原因を明らかにするため、中心炭素の片側を13Cに置換したκ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2(右図)をもちいて13C-NMRを行った。

その結果、100 K付近でNMRスペクトルの線幅の増大が観測された(下図a)。加えて、スピン-スピン緩和時間(T2)にも100 K付近で異常が観測された(下図b)。このことから、κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2では100 K付近でのスローダイナミクスの存在が分かった。1H-NMRの結果などからこのスローダイナミクスの起源は、BEDT-TTF分子の端にあるエチレン基の運動のスローダウンであると考えらえる。

さらに、我々は、BEDT-TTF分子の端のエチレン基にある1H原子をD(重水素)に置換したκ-(BEDT-TTF-d8)2Cu(NCS)2を用意し、13C-NMRのT2を測定した。D置換体のサンプルでもT2異常が100 K付近に観測された(下図c)。また、T2の異常が各サイトの超微細結定数に依存すことが明らかになった。 これらの実験より、Cu(NCS)2塩では伝導電子がBEDT-TTF分子のエチレン基の分子運動に散乱されることを我々は見出した。

以上の結果は "Low-frequency dynamics of κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2 observed by 13C NMR" Phys. Rev. B 83, 144505 (2010). に公表した。