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国際学会体験談(八城愛美さん@統計物理学研究室)
今回私が参加したのは、岡山県で2019年9月23-28日に開催されたInternational Conference on Strongly Correlated Electron Systems (SCES) 2019という、固体物理学の中でも強相関電子系の物理現象に焦点を当てた国際会議です。この会議は全世界の各国を巡って開催されていますが、本年度の開催地は日本の岡山県でした。SCESで取り扱われるテーマは、一口に強相関電子系と言っても非常に多岐に渡り、非従来型超伝導体やトポロジカル物質、多極子秩序をはじめとした幅広い分野の研究発表が行われました。
SCES2019の会場は岡山コンベンションセンターという、岡山駅に直結した4階建ての会議施設です。その中でも最大収容人数を誇るホールでは、2日目から5日目の朝にPlenary talkとして、銅酸化物超伝導体や動的平均場理論、量子スピン液体等における昨今の進展や成果に関する講演を聞くことができました。Plenary talkの後は、コーヒーブレイク(と朝食タイム)を挟んだ後、各セッションの講演がスタートします。Plenary talkでは「全参加者が聴くことができるように」と、その時間帯には一つの講演しか行われませんが、それ以降の時間帯は4つの部屋でそれぞれ異なるテーマのセッションが同時に行われます。SCES程大きな規模の国際会議に参加するのは初めてでしたが、いつどの講演がされているかは、通常のプログラム冊子の他、講演・アブストラクト検索ができるように作成されたSCESアプリでも確認できるようになっており、非常に便利でした。
また、通常の口頭による講演の他に2-4日目にはポスターセッションの時間が設けられていました。ポスターの数は非常に多く、会場の人口密度も高く、熱気に溢れていました。じっくり説明を聴けるので私はポスターセッションがとても好きなのですが、今回ポスター会場を回っていて悔いが残ったのは、聴衆が自分以外にも数名いる場合、他国の方達の英語力と質問の勢いに若干押されてしまった点で、より正確でスピード感のある英語力と前のめりの姿勢を身につける必要があると実感しました。
そんな中、私が発表を行ったのは、4日目のポスターセッションです。発表内容は、f電子系化合物CeCoSiにおける奇パリティ多極子秩序の理論的研究についてです。CeCoSiは正方晶系の金属化合物で、反強磁性秩序が低温相で実現していることが知られています。一方で、反強磁性秩序相より高温側で反強電気四極子秩序が実現しているのではないか、という可能性が近年実験グループによって指摘されていました。我々はCeCoSiの結晶構造下でこれらの秩序状態が実現すると「奇パリティ多極子秩序」とよばれる、物質の空間反転対称性を破る秩序を誘起する可能性があることに注目しました。「奇パリティ多極子秩序」は、静電場によって磁化を誘起する電気磁気効果などの特異な外場応答をもたらすため、我々はCeCoSiを念頭において構築した微視的な有効模型を用いて、奇パリティ多極子秩序が安定した場合の電気磁気効果やスピン分裂を示すエネルギーバンドの特性、秩序状態の微視的な安定性等を理論的な観点から明らかにしました。発表は幸いなことに多数の方に聴いていただくことができました。特にCeCoSiの実験グループの方達とのディスカッションは、その後の方向性を決める上でも不可欠なものとなりました。また、その他にも多極子物理は分野外だが興味がある、と聴いてくださった国内外の学生の方なども数名いらっしゃり、多極子物理の明快さや面白さが伝わってほしいと思いながら身振り手振り、ipadを持ち出して説明をするなど、非常に良い時間となりました。また、光栄なことにこの発表で最終日のBest Poster Awardを授与していただきました。
昼食や夕食時にはご当地の名物等を楽しみました。写真のカレーは岡山名物というわけではありませんが、理研の博士学生の方達とご一緒した際、彼女たち(インドネシア出身)が会場周辺で愛用しているお店、ということで連れて行っていただいた思い出深い料理の一つです。カレーなどを食べながら、お互いの研究テーマや、研究室でのエピソードを話しあったりしました。
今回の会議は、国内で開催された国際会議ではありましたが、普段滅多に会わない他国の研究者の方達とお話できたことや、講演を聴いて他国あるいは世界的な昨今の研究のトレンドに触れられたことはもちろん重要な経験になりましたし、ポスター発表の後半の時間帯に、気が付くと周りの人たちがほとんと缶ビールを持っていたこと、10歳ぐらいの少年が父親である発表者のプレゼンテーションのアシスタントを務めていたことなど普段の国内の会議とは一風変わった様子に衝撃を受ける場面もあったり、英語でディスカッションをする訓練の必要性も改めて実感したり、と実りの多い体験でした。
研究自体が国の垣根を超えたものであるとはいえ、やはり普段の研究生活や、国内会議で触れるものには、日本国内独自の傾向がある程度ついて回ると思います。そういった中、普段我々が過ごしている環境とは違う国、文化圏にいる人達が集まる国際会議である意味「偶然」出会う研究や文化は、普段とは違う気付きや知識を与えてくれるものになると思います。もしこういった国際会議に参加できる機会があれば、是非皆さんも参加されてみてはいかがでしょうか。
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