国際学会体験談(小森 至瑠さん@量子物性物理学研究室)
64th MMM (64th Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials)は,その名の通り,磁性体と磁性材料にスポットを当てた国際会議で,基礎物性からデバイスへの応用まで磁性に関する内容を網羅的に扱っている点が特徴です (開催国:アメリカ合衆国,開催期間:2019年11月4日~8日).その中で私は「高次トポロジカル絶縁体」をテーマとしてポスター発表を行いました.2次元の表面に金属的な状態が存在する従来のトポロジカル絶縁体と異なり,高次トポロジカル絶縁体は1次元の稜線や0次元の頂点に金属状態を有する新規物質です.私の発表は,2018年にSchindlerやNeupertらが考案したモデルを拡張することで,1次元の稜線に金属状態を持つ2次のトポロジカル絶縁体においても従来のトポロジカル絶縁体と同様の相分類ができることを提案するという内容でした.
私は今回の国際学会を経験するまで海外へ行ったことはありませんでしたが,様々な経験を行うことを推奨している指導教官の近藤憲治先生に出席を勧めていただき,同研究室の先輩である石田さんと二人で海外へ行くことになりました.目的地であるネバダ州ラスベガスまでの直行便が日本からは出ていなかったため,テキサス州ダラスを経由した,移動だけでおよそ1日かかる旅程になりました.国際線から降りた後,入国審査が比較的スムーズに行えたときは本当にホッとしました.入国する際に通るゲートの前にはショットガンを持った警備員がいましたから・・・.先輩の手荷物が再検査されたため国内線に乗り遅れかけるなどのハプニングはありましたが,無事に最終目的地であるラスベガスに到着しました.世界一の歓楽街と名高いだけあって,空港内にもスロットマシンが設置してありました.空港からホテルへは事前に予約していたタクシーを利用しました.降りる際にチップを渡したのですが,初めてということもあって額を弾んでしまいました.
私たちは学会が指定したホテルに宿泊したのですが,学会会場であるコンベンションセンターが宿泊棟に併設されていました.ホテルに入館した瞬間,目の前にカジノが広がり,昼にも関わらず大いに盛り上がっている光景が目に飛び込んできました.こんなところでまともな会議ができるのか,というのが第一印象でしたが,会場であるコンベンションセンターは大変落ち着いていたので,居ずまいを正しました.チェックインを済ませた後,ホテル周辺をぐるりと散策してみることにしました.360度見渡す限り赤土に覆われた山があり,同じ盆地でも青々とした山に囲まれている私の地元 旭川市の風景と全く異なっていたことが印象的でした.また,雑草感覚で生えているサボテンや街路樹であるヤシの木の存在が日本では味わえない独特な雰囲気を演出していました.一方で,目抜き通りの方へ視線を送ると派手なネオンサインに覆われた建物が乱立していて圧倒されました.
卒業研究や国際シンポジウムなど英語で発表する機会は何度かありましたが,聴衆の大部分を海外の研究者が占めている状況は初めてだったので,非常に緊張しました.英語での応対がしっかりとできるか不安でしたが,私の拙い英語でも参加者は単語やフレーズを変えることで真剣に聞いてくれました.その際に,ポスターのデザインを褒めてもらう場面や”great.”と感嘆しながら興味を持ってもらう場面があり,発表を行えて本当に良かったと思いました.中でもパキスタンの研究者は特に興味を示してくれ,「共同研究をしよう」と連絡先を教えてくれました.また,Schindlerが引用している論文の著者にお会いし議論を行えたことは規模が大きな大会ならではの経験だったと思います.反省点としては,事前に話す内容を用意していた原稿部分に関する会話は比較的スムーズに行えたのに対して,質問への回答や雑談時に自分の主張が伝えられなかったことが多々あったことです.海外での生活や議論を楽しむためにも,英語を読むだけではなく話す訓練を行う必要性を感じました.
この体験記に記した経験はほんの一部分で,他にも書ききれなかった様々なことを経験することができました.行く前は銃社会であるアメリカへ赴くことに委縮しており,あまり乗り気ではありませんでしたが,いざ着いてみると日本とは全く異なる景色や文化,海外の研究者とのコミュニケーションを通して自分の世界が広がっていくのを感じ,会議が終わる頃には素晴らしい経験をさせていただいたと心から思いました.ぜひ後輩の皆さんも積極的に機会を作って国外の学術会議に参加してみてはいかかでしょうか.日本に籠っているだけでは経験できない刺激的な体験が待っていることと思います.
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