研究報告

--CdMnTeにおける赤外発光の励起スペクトル--

 この研究では、CdMnTeにおける赤外発光に着目し、Mn濃度の異なる試料について励起スペクトルを測定し、その結果から、d電子とバンド電子間のエネルギー移動について考察します。
 試料の励起には、色素レーザーを用います。このレーザーの発する光のエネルギーを変化させて試料を励起します。励起された試料は、元の状態に戻るときに、吸収した光よりもエネルギーの低い光を発します。この光を光電子増倍管で受光し、オシロスコープで観測します。
 Mn濃度を変えたときの140Kにおける赤外発光の励起スペクトルを 図2、3の黒丸で、また、Arレーザー(2.41eV)で励起した時の発光スペクトルは線で示しています。
 (a)は励起子吸収の位置を、(b)はMnのd-d遷移吸収の位置を示しています。
 図2と図3を見ると、励起子吸収の位置とd-d遷移吸収の位置により、励起スペクトルの位置、幅が大きく異なっているのがわかります。
 図2は、励起子吸収のエネルギーがd-d遷移吸収より低い場合で、励起スペクトルは吸収端の発光の形に似ています。この結果は、バンドを励起している事を表しています。
 一方、図3は、励起子吸収のエネルギーが大きい場合で、この時の励起スペクトルのピークはMnのd-d遷移吸収の位置にあり、幅も励起子吸収より広くなっています。
 これは、赤外発光はバンドへの励起ではなく、d-d遷移吸収が効果的である事を示しています。
 そこで、これらのピーク位置を濃度に対してプロットしたもの が図4です。
 赤外発光(菱形)のピーク位置はほとんど変わっていないのに、励起スペクトル(黒丸)の位置は、0.45付近までは吸収端発光(三角)の位置と同じように変化し、それ以降はMn発光(逆三角)のように濃度に依らず一定となっています。
 この実験結果は、バンドギャップとd-d遷移のエネルギーの大小関係によってエネルギー移動の様子が異なる顕著な結果です。
 まとめると、バンドギャップがd-d遷移吸収エネルギーより小さい場合は、バンドを励起したあと直接赤外発光の励起状態へエネルギー移動するが、バンドギャップがd-d遷移吸収エネルギーを超えると、一度Mn発光の励起状態へエネルギー移動したあと赤外発光の励起状態にエネルギー移動する、という2つのプロセスがあることが解明されました。