統計力学や超伝導・超流動の理論における基礎的問題を,ファインマン図形やグリーン関数など,場の量子論的手法を用いて研究しています。最近の研究成果を以下にまとめます。

超伝導 | 超流動 | 非平衡統計力学

  • 場の量子論による非平衡統計力学
    [ T. Kita: Prog. Theor. Phys. 123 (2010) 581; 北 孝文: 物性研究 90 (2008) 1 ]

    膨張する宇宙,星の内部に存在する温度勾配,あるいは地球上における雲の形成や台風の発生など,自然界は,エネルギーや運動量の流れがある「非平衡現象」や,様々な「パターン」および「秩序」に満ちています。「非平衡統計力学」や「パターン形成」の問題は,計算機の発展とも相まって,1970年代以降に活発に研究されてきました。一方で,このような系を扱う統計力学的手法は未だに確立されていない,と思っている方も多いかと思います。実際,我々が大学の授業で学ぶ統計力学は,「孤立系」や「温度一定の系(カノニカル分布)」など,エネルギーや運動量の流れが存在しない系でのみ有効です。また,非平衡現象を扱う理論である「久保公式」等の線型応答理論も,その適用対象は,非平衡の度合いが小さい場合に限られています。このように,自然現象とそれを記述する物理理論との間には,一見,大きなギャップがあるようにも思えます。しかし,グリーン関数を用いると,非平衡現象を扱うことに原理的な問題はなく,平衡状態と同様な考察が可能なのです。

    このレビュー論文では,実時間のケルディシュ・グリーン関数を用いた非平衡統計力学の概要を解説しました。まず、ケルディシュ・グリーン関数の定義を明確かつ簡潔に与え,相互作用に関する摂動展開のファインマン則を詳しく説明しました。非平衡系での近似計算には,特別の注意が必要です。つまり,粒子数・運動量・エネルギー保存則を満たすような近似をしないと,得られた結果が全く意味を持ちません。この論文では,その要請を満たす代表的な近似法である「保存近似」を詳しく説明し,様々な保存則が満たされていることの証明も与えました。さらに,この定式化からは,変数消去により,ボルツマン方程式や流体力学のナビエ・ストークス方程式も導出できます。弱結合の場合について,その過程を余す所なく説明し,粘性係数などの表式を与えました。最後に,非平衡状態におけるエントロピーの表式も与えました。熱力学で導入されるエントロピーは,熱平衡状態で定義されています。「孤立系のエントロピーは増大する」と熱力学は主張しますが,これは始状態と終状態を共に熱平衡状態に選んでそれらのエントロピーを比較することにより得られた結論であり,我々は未だに広く受け入れられた「時間変化するエントロピー」の一般的表式を持たないのです。ここで得られたエントロピーの表式は,「非平衡エントロピー」の確立に向けて,基本的な役割を果たすと考えています。

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