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フィルタ回路の作製
                       関 春海

 

filter  PSDから出てきた信号を受けるためのフィルタ回路を設計した。 この回路の出力はADコンバータに入力する。 前・後段との接続により多くの制約のもとに設計されるので、 以下それについて説明する。

●フィルタについて

 PSDユニットから出力された信号には必要のない信号が含まれている。 この余分な部分をカットするために、 ベッセル特性でカットオフ周波数100 kHzのLaw Pass Filterを設計した。

 NMR信号は時間軸に沿った測定であるため、信号の波形が変化してはいけない。 そのため位相変化が線形であるベッセル特性のフィルタが必要となる。

 またNMR周波数はおよそ100 MHzでありパルス幅(Δτ)は大きくても2 μs程度である。 このバーストパルスによりパワースペクトルは輝線でなくなり幅を持つが、 十分にパワーがある領域はf0±1/(10Δτ)程度で50 kHzであるから、 十分余裕をもってカットオフ周波数を100 kHzに設定した。

 フィルタの設計は、 Texas Instruments FilterPro というプログラムを用いて行った。 FilterProは無料で、特性やカットオフ周波数などを指定するだけで回路図を表示してくれる便利なプログラムである。 今回は特性等の指定に加え、部品を調達する都合でコンデンサの容量を指定し回路定数の変更を行った。 (図参照→拡大図はこちら)

  <設定条件> Passband:Law-Pass
            Circuit Type:MFB Single-Ended
            Poles:4
            Cutoff Freq.:100kHz
            Filter Type:Bessel
            Optional Entry:A-C1=100p, B-C1=100p
FilterPro

●PSDからの要請

MPD-2+  PSDユニットの出力部分に使われているPhase Detector(Mini-Circuits:MPD-2+)は、 DC Out Impedanceが500 Ωであるから、Filter回路の入力インピーダンスを500 Ωに設定しなければならない。 したがって、入力直後に500 Ωでインピーダンスマッチングを行った。

 この後に続くFirter回路のインピーダンスは500 Ωよりはるかに大きいので、 電力は500 Ω抵抗で消費される。 PSDをリニア動作させるためには、最大出力の電力の−20 dB程度の最大出力に抑える必要があり、 電圧で出力の1/10程度がこの回路の入力レベルとなる。 Phase Detector(Mini Circuits:MPD-2+)の最大出力は1Vであるため、 フィルタの入力は50〜100 mVに設計されている。

 信号は先に帯域幅10MHz程度のバンドパスフィルタを通過していることを想定し NMRのSNは1回の測定では1より小さいので、フィルタ回路に入力するときには V=50 mV、BW=10 MHzの雑音信号になっている。 この信号が10 0kHzのLPFを通過すると大部分がカットされて電力で(100kHz/10MHz)=1/100、 電圧で1/10になるので、V=5 mV、BW=100 kHzの信号になる。

●ADコンバータとの関係

ADコンバータ  ADコンバータの入力が±1Vを想定して設計されているので、 このフィルタ回路の出力も±1V程度にしなければならない。 フィルタ通過直後の電圧はV=5 mVであるから、フィルタ回路の後ろに200倍の増幅回路を設計した。

 サンプリング周波数はもとの周波数の2倍以上でなければならない。 今回、カットオフ周波数100 kHzのフィルタを通過した信号なのでサンプリング周波数は200 kHzであればいい。 しかしLPFは位相特性を優先したために振幅特性は悪く (先に示したFilterProの特性グラフを見ると1MHzでようやく−70 dBになる→図参照)、 オーバーサンプリングして2 MHzのサンプリング周波数を持つ ADコンバータ(タートル工業:TUSB-0216ADMH) を後段に用意する必要がある。

●DCオフセット調整機能

オフセット調整  前段のPSDでの強いLO信号はRF側に漏れてDCオフセットを作り出す。 このDCオフセットを取り除くための機能をフィルタ回路も必要となる。 差動増幅回路のV+を可変抵抗で調整できる機能であり、このV+の基準電源+1.2 Vは 精密基準電源(National Semicondctor:LM285-1.2)を用いて作った。

 200倍増幅回路を非反転増幅(20倍)と差動増幅(10倍)を組み合わせた形にすることで、 DCオフセット調節機能を後段に持たせた。差動増幅のV+を可変抵抗で調整することができる回路を設計、 非反転増幅で20倍になったDCオフセットを可変抵抗によって調整できる。 Phase Detector(Mini Circuits:MPD-2+)のDC offsetは1 mVmaxであるが、RF増幅回路での回り込みも含め、 フィルタへの入力段換算で±60 mVの補正が可能である。

 回路は以下の図に示すもので、安価な2回路入りOPアンプ (新日本無線株式会社:NJM2115)を利用することにより ローコストで制作することが可能である。

 →回路図のダウンロードはこちら

回路図                                                 2010年12月3日