フラストレーションが誘発する新奇な量子磁性

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スピン間に反強磁性的交換相互作用が働くと,両スピンはエネルギーを下げようとして互いに逆向きになります。例えば正方格子反強磁性体では,任意の隣接スピンが反対向きとなる反強磁性長距離秩序が,実際に観測されます。

それでは,3角格子反強磁性体では何が起こるでしょうか。3角形を構成する2つのスピンを反対向きに配置すると,第3のスピンはどちらを向いても両スピン双方の顔を立てることはできず困ってしまいます。これがフラストレーションです。交換相互作用は一般に長距離に及びますから,隣接スピンを飛び越えてこれが有為に働く場合には,正方格子とてフラストレーションと無縁ではありません。フェルミオンの反交換関係に遡って交換相互作用の導出を思い起こすと,Si・Sj型の交換相互作用はその再低次に過ぎず,一般に多スピン間に作用する高次項が存在することがわかります。例えば4スピン間に働く通称リング交換相互作用は,近年,銅酸化物や固体ヘリウムでその寄与が指摘されています。こうした高次交換相互作用もまた,フラストレーションを誘発します。

こうしたフラストレーションはしばしば,直感的には想像し難い新奇な磁性相を生み出し,その間のドラマティックな量子相転移につながります。古典的な上下上下の秩序は無いけれど隠れた規則性があったり,電流ならぬスピンの流れがあったり。強磁性的・反強磁性的性質を併せ持つフェリ磁性体では,スピンの大きさが連続的に変化する珍しい相転移も観測されます。