数理物理学研究室 研究内容

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粒子の空間的自由度が制限される低次元系では, 物性に量子揺らぎの効果が顕著に現れます。電子に付随する電荷とスピンは,人間のお腹と背中のように思えるかもしれません。しかし,これらは別々に行動(電荷・スピン分離)することもあるのです。自由に動き回っていた電子が,縞模様を形成して整列(電荷密度波)し,絶縁体化(パイエルス転移)することもあります。ナノスケールの分子磁性体(単分子磁石)では,量子力学で学んだゴースト現象(磁化の量子トンネリング)が本当に観測されます。

本研究室では,こうした『低次元特有の新奇な量子協力現象』を広く研究対象としています。その発現機構の解明に邁進することは勿論ですが,結果のみ追い求めるのではなく,そこへ至るプロセス,つまり方法論的開拓精神も大いに発揮します。1930年ブロッホに始まり,アンダーソンと久保により発展したスピン波理論を,現代物理学で脚光を浴びるスピン・ギャップ系や単分子磁石に応用してみます。2000年ノーベル賞に沸いたポリアセチレンのソリトン模型を,遷移金属錯体の非線形光学励起に転用してみましょう。磁石の熱力学をより上手に記述できるのは,ボソンとフェルミオンいずれでしょうか。目的地に着くまでの道のりを十二分に楽しんでみたいと思います。理論家の知的探索は,芸術家の創作活動にも似ています。

コンピューター性能が日進月歩で向上する今日,計算物理学的手法も縦横に駆使します。量子モンテカルロ法には,すごろくゲームのような面白さがあります。時間依存ハートリィ‐フォック法で旅をすれば,時々刻々変化する車窓からの景色を堪能できます。体育会の筋力トレーニングにも似た配位間相互作用法のトンネルを抜けると,眩しい光吸収スペクトルが見えてきます。大規模な数値計算は数ヶ月に及び,1本の論文に延べ1年以上のCPUタイムを費やすこともしばしばです。

個々のトピックについて,以下のページでさらに詳しく紹介します。

有機高分子の光学観測と光制御

低次元金属錯体の多彩な基底状態と超高速光反応ダイナミクス

スピン波理論の新しい展開―1次元そして0次元へ―

ナノスケール分子磁性体に観る量子磁気共鳴とスピン緩和

フラストレーションが誘発する新奇な量子磁性