ナノスケール分子磁性体に観る量子磁気共鳴とスピン緩和

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錯体化学研究の進展は著しく,近年,12個のMn,8個のFeなど,少数の磁性原子を集めて,独立した1つの小さな磁石を創ることが可能になりました。こうした分子磁性体はナノスケールの磁石であり,量子トンネリングの実地検証(現代物理学),量子コンピュータ素子への応用(情報科学),巨大保磁力磁気デバイスの開発(材料工学),フェリティン等生物体内磁性微粒子の機能解明(生物学)など,多岐に渡る興味を内包しており,異分野の科学者達が競って研究しています。

この言わば0次元におけるスピン緩和現象は,量子トンネリング機構熱活性化機構が競合する,興味深くも複雑なものです。温度を数ケルビンまで下げてゆくと量子力学がその姿を現し,だまし舟の舳先と帆が入れ替わるように,スピンの向きは確率的に揺らぎ,反転します。この磁化のトンネリングは実際に観測され,1996年英科学誌Natureに速報されました。

0次元のスピン緩和を『観る』手段の1つに,核磁気共鳴実験があります。電子スピンと核スピンは超微細相互作用を介して相関しており,核スピンという望遠鏡を覗くことで電子スピンの量子緩和を窺(うかが)い知ることができます。0次元特有の修正スピン波理論を構築して,あるいは数百万次元という大規模行列の数値対角化を敢行して,この核スピン緩和の理論創りに励んでいます。本専攻低温研究室とリアルタイムの連携を図り,理論予言⇒実験検証,実験観測⇒理論解釈という,共同研究を進めています。