低次元金属錯体の多彩な基底状態と超高速光反応ダイナミクス

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白金やニッケルなど遷移金属がハロゲンを介して1次元的に配列するハロゲン架橋金属錯体―MX錯体―では,高次ラマン散乱や発光スペクトルの巨大ストークス・シフトに観るように,強い電子-格子相互作用が物性を支配します。この物質群では,電子-格子相互作用はもとより,クーロン相互作用軌道エネルギー次元性などを,化学置換により自在に調節することができます。変幻自在の舞台設定に加えて,金属のd電子,ハロゲンのp電子,時に配位子のπ電子までが舞台を駆け巡り,役者も多彩です。ダブル・ヒーロー,トリプル・ヒロインによる協演あるいは競演は,π電子の独壇場である有機導体物性とはまた違った楽しみがあります。

豊富な役者陣を反映して,基底状態においては多彩な電子・格子秩序状態―電荷分布・スピン分布・原子配置の縞模様―が実現します。この縞模様は数学―群論―を駆使して,100%予言することができます。物質の中のミクロな世界にこの予言が観測されれば,喜びはさらに大きくなります。

基底状態に光照射すると今度は,ソリトン,ポーラロン等,さまざまな非線形光学励起状態が出現します。最新のコンピュータを何週間と回してシュレーディンガー方程式を解くことにより,これら光学励起状態の緩和過程を美しく視覚化することができます。ソリトンは電子と違って,スピンだけあるいは電荷だけ運ぶことができ,またピコ(10−12)ないしフェムト(10−15)秒という超短時間内に生成します。ここから,超高速光スウィッチング,エレクトロニクスからスピントロニクスへという発想が生まれてきます。

九州大学や東北大学の錯体化学研究室,東京大学の光学実験研究室などと協力して,スケールの大きな実証研究を展開しています。