1. はじめに  リンク により調べることが出来うる単語は左記リンクと同様下線付きブルーの文字で示します。

 我々は太陽の恵みを受けて世界は光に満ちあふれている。太陽の光が満ちあふれている大学構内の今は無き中央食堂前のポプラ並木(2000年)。我々に見えるのは可視光とよばれているとっても狭い範囲の電磁波で、電磁波は図に見られるようにとても広い範囲にわたって我々の周りに存在しています。



この明るさも光が無ければ一寸先は、闇です。我々の研究はこの闇の中で物質にレーザー光(light amplification of stimulated emission of radiation)を当て、物質の中でどの様なことが起きているかについて調べ、物質の理解を深める事を目的としています。 この助けのために2K( - 271℃)・30GPa(3万気圧)と言った極低温や超高圧の助けを借りています。ここで用いられるレーザーは普通には安定状態では実現しない、準平衡状態の 負の絶対温度 状態から放出されている人工的な光で、凡そ50年前に初めて人工的に作られた光です。この人工的だと思われていた光が、天体からの光 (含む MASER マイクロ波)にも観測されています。

 レーザーは物質にほとんど何の変化も与えず、その物質の種々の情報をこれを解明する一つの道具として非常に有用です。このレーザー光は


と言った特徴を持っています。さらに継続時間は短いが、そのピーク強度の大きいパルスレーザーが作られ種々の研究に応用されています。強い光を当てて、状態変化をさせる、加工に使われ、レーザー核融合等も考えられています。核融合の実現はこの方法では今のところあまりうまくいっていないようです。また我々の日常生活の場にはあまり強くないレーザーがCD/CD-RW、スーパーのレジ、レーザーディスク等で利用されています。このレーザーの発展は下記のようになっています。宇宙でのレーザーの発見も天体を調べる有力な道具になっています。  さらに振り返ってみると、現代物理学の発展は水素原子の発光スペクトルの解釈から量子力学が生まれ、水素原子の2sと 2pが偶然縮退していないことから場の量子論が発展し理論の善し悪しの判断の尺度にこの分裂の大きさが用いられています。  最近レーザーと呼ぶにはレーザーの特徴である単色性に欠ける時間幅の狭い10-14秒(10フェムト秒:光が10ミクロン進む時間より短い)と言った超短パルスレーザーが開発され、非常に短い時間に固体の中で起きる現象を調べることに使われるようになって来ております。このレーザーは量子力学における 不確定性 (時間の不確かさの幅)×(エネルギーの不確かさの幅)=Δ t · Δ ω ≈ h (プランク定数 6.626x10-34J·s)の関係から可視のあたりでは100nmもの幅を持つ光となってしまいます。
 レーザーを用い調べることの出来る事柄はやはり励起状態やそこからの緩和と言った多くの固体物理の研究対象とは少し違った励起状態に関する研究にも有効です。励起状態は周辺との関わりが複雑に絡んで面白いことが沢山あります。
 また最近は見えない光・人工的な電磁波が携帯電話等を通じ我々の周りを飛び交っています。これは半導体技術の発展で非常に高精度の素子が作られるようになった事に起因しています。その発端はトランジスターの発明で、人工格子の作成等によりその幅が広がっています。しかしこの半導体についても種々未解明の事柄が山積しています。
光を使って研究できることは多々ありますが、我々が研究をしていることでこの分野の最近の研究の紹介に変えさせて貰います。我々の最近の主な研究は
1.半磁性半導体中で励起されたd電子の緩和
2.非線形効果の大きい カルコパイライトの複屈折 (関連事項: 光学活性))に関する研究
3.理論予測され、未観測の ブロードラマン散乱 をβ カロチンを使っての観測 ラマン散乱
4.液体が固体に相転移するときその前駆現象はどこに現れるのか? 液体 CSのラマン散乱
5.フェムト秒レーザーによるコヒーレントフォノンの研究
6.テラヘルツ(1012 sec-1)電磁波の発生。この周波数領域の物性の探査が当面の課題であるが、
  この分野では最近種々の応用への研究が各所で企てられている。
等々です。

2.半磁性半導体
 半磁性半導体は半導体の中に磁性不純物が入っていることから電子の相互作用にs電子或いはp電子とd電子の相互作用から半導体の伝導電子帯や価電子帯が大きい磁場依存性を有することから研究が始まり最近の磁性半導体へと研究が進展し、その応用が真剣に模索されています。この元となった研究において今なお解決のついていないものがあります。ただ応用の道が開かれると取り残されてしまう事が多くなります。
 取り残された研究の一つは半導体中のd電子の遷移は局在状態の電子準位間の遷移であるのにも関わらず幅が広くて強度が強いと言った事が長い間の疑問とされてきたことです。この事に対する一つの答えを与える実験を行った。
 半導体CdTe中のCdの格子点に入った 磁性不純物Mnのd電子の電子状態のd-d遷移のエネルギーが1電子近似のバンド間エネルギーより小さいとき(CdxMn1-xTeで x>0.4)この d-d遷移に基づく吸収と発光が見られるが、このエネルギが大きく違っている。また吸収スペクトルの幅がMnのd電子は局在していると考えられているにもかかわらず広い。これらの原因として次に記すような事が考えられた。
 ・その吸収ピークエネルギーが格子定数とこれは電子格子相互作用により
  励起Mnが大きく格子変位を起こすのではないか?
 ・この変位により励起状態の準安定の位置の対称性も元の位置と違っていることから
  d−d遷移に他の対称性が混じり吸収係数が大きくなるのでは? 
 ・幅 が広い原因の一因にMnイオンの周辺のCdとMnの分布の様子が異なるため
  特にMnのもつ スピンspin in English) 間の相互作用が大きく、
  d準位におおきいエネルギー分布を引き起こしているのではないか?

 実際にこれらを明らかにすべく d−d遷移の近傍で励起波長を変え、 発光が励起波長と共にその位置が変わる事パルスレーザーで励起すると時間の経過と共に発光の位置が変化する事
からMnイオンの周辺の状況に違いが存在する事が明らかになりました。 また発光の温度を4Kから100Kまで変えるとその環境の違いが無くなること等から、スピン間相互作用が発光の幅に関係していることが明確になった。しかし残念ながらこの過程でどの様にMnイオンがどこまで動いているかについて、現在のところまだ明らかでない。この様な事情は電子素子の劣化に関係しているGaAs半導体中のDXセンターも似たような状況です。 しかしDXセンターを回避する技術が確立し、その原因追及の試みが世界的に少なくなってしまっています。

3.フェムト秒分光
  
 物質に光をあてると、最初に電子系が励起された後、電子格子相互作用を通じて、物質の格子配列に変位が生じます。特に、格子の固有モードの振動周期より十分に短いフェムト秒光パルスで励起した場合、励起のタイミングに同期した格子振動が発生するので、励起光に対して時間差を付けた別の探査用の光パルスを物質にあててやると反射率や透過率の変化から格子振動の様子を時間軸上で観測することができます。このように、超短時間光パルスにより時間軸上で生成・観測される格子振動はコヒーレントフォノンと呼ばれており、様々な物質において研究が行われています。現在、10フェムト秒の時間分解能で、反射率や透過率の1/108といった微小変化を測定する技術を実現しており、物質の励起状態に関して非常に緻密な情報を得ることができます。コヒーレントフォノンの特徴としては、周波数領域の分光に比較して、格子振動の位相情報などから電子格子相互作用に関する知見が得られるほか、光によって高密度に励起された状態における格子振動の振る舞いを調べられることなどが上げられます。また、時間軸で得られたデータからは、現象の実時間・実空間における直感的な理解が可能となります。 グラファイトの層間ずれ振動モードにおけるコヒーレントフォノン信号を観測した場合には、信号の励起強度依存性や偏光依存性などから、層間を結合している π電子が励起光の偏光により異方的に励起され、その方向の結合が弱まることにより、層間のずれが誘起されることが分かりました。


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