有機物超伝導体の超伝導発現の機構を明らかにするため、トンネル顕微鏡(STM)を用いた分光測定を行い、超伝導ギャップの対称性を調べた。(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2単結晶試料について、二次元的伝導面(b-c面)の種々の方向からトンネル探針をたてることにより得られたトンネル微分コンダクタンスの結果が図である。微分コンダクタンスは超伝導状態の電子状態密度を反映するが、図7に示す結果は超伝導ギャップが二次元面内で極めて異方的であることを示している。トンネル遷移確率の波数依存をWKB法で取り入れた解析から、この超伝導ギャップはb軸とc軸からp/4の方向にノードを持つd(x2-y2)波の異方性を持つことが明らかになった。したがって、電子格子相互作用によるオンサイトの引力ではなく非局所的引力が超伝導をもたらしていることが理解される。今後は、s波の対称性を持つことが期待される(MDT-TTF)2AuI2を初めとした他の有機超伝導体においてもSTM分光測定を行うとともに、磁場中での渦糸の電子状態のSTM観測も行い、種々の有機物超伝導の発現の機構を明らかにする予定である。