極低温基礎物性測定 |
キャパシタンス式磁力計を用いた極低温精密磁化測定 低温で磁化を測定する方法としては、試料をピックアップコイルの中で動かして誘導起電力を測る誘導法と試料に交流磁場をかけて応答をみる交流法が、これまで主に用いられてきました。しかし、これらの方法では摩擦や誘導電流による発熱があるため、1K以下の極低温下で精密な測定を行うことは非常に困難でした。私たちのグループでは、榊原教授(現、東大物性研教授)、卒業生の田山孝氏(現、東大物性研助手)らが中心となって独自の磁力計を開発し、希釈冷凍機温度領域(40 mK ~ 5 K)で9万エルステッド(参考までに、地磁気の大きさは0.1エルステッド以下)までの磁場掃引による高感度磁化測定を可能にしました。
この磁力計は、磁性体に働く力が磁化と磁場勾配に比例することを利用したものです。磁性体に働く力に比例して平行平板コンデンサー(電極間距離約
0.1 mm)の可動電極が動き、静電容量が変化するので、この静電容量を高精度キャパシタンスブリッジで正確に測ることによって磁化がわかるという仕組みです。つまり、下図のようなキャパシタンス式の「バネばかり」で磁性体に働く力を測定しているのです。試料をほとんど動かす必要が無いので発熱が無いことが、極低温領域での静的磁化測定を可能にした理由です。この装置の開発により、たとえば、重い電子系の異方的超伝導状態における熱平衡磁化の振る舞いを初めて明らかにすることができました。私達は現在、静水圧下および1軸応力下で磁化測定を可能にするため、さらに装置の機能を拡張しています。
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キャパシタンス式磁力計の動作原理図
キャパシタンスセル |
圧力セル搭載型改良キャパシタンスセル |
極低温磁化測定システムを組み込んだ 100マイクロワット3He-4He希釈冷凍機 ( 0.04 K < T < 20 K, B < 9 T) |
断熱セル内部 |
SQUID磁束計による磁化測定、交流磁化率測定 その他の磁気測定システムです。SQUID(量子干渉)磁束計は、引き抜き法で磁化を自動測定する装置で、主に広い温度範囲の磁化を調べるのに用います。高圧研究室と共同利用しています。 交流磁化率測定システムは、ほぼゼロ磁場での複素磁化率を測定する装置です。磁気相転移点近傍の臨界現象や、量子臨界点近傍にある物質の非フェルミ液体的挙動を調べるのに適しています。 |
SQUID磁束計(2 K < T < 600 K, B < 5.5 T) |
交流磁化率測定システム (0.09 K < T <20 K, BAC ~ 1 mT) |
緩和法比熱測定 緩和法により、数mg程度の小さな試料の比熱を広い温度範囲かつ強磁場中で測ります。 比熱から物質のエントロピーがわかり、系のもつ微視的自由度の振る舞いを予想できます。比熱は物質の性質を理解する上で最も重要な物理量のひとつです。 |
緩和法比熱測定システム (0.36 K < T < 200 K, B < 12 T) |
電気抵抗測定 物質の電気抵抗を測定し、伝導電子の散乱に関する情報を得ます。 |
輸送特性計測システム (0.3 K < T < 300 K, B < 7 T) (開発中) |
超音波音速測定(弾性定数測定) 物質の中を伝わる様々な音波の音速を測定し、物質の弾性を調べます。格子振動の振る舞いを観測することにより、電子−格子間相互作用を通じて電子の軌道に関する情報を得ることができます。新潟大学の後藤輝孝教授にご指導頂き、卒業生の桑原慶太郎氏(現、東京都立大助手)により製作されたシステムです。 |
超音波音速測定システム (2 K < T < 200 K, B < 12 T) (mK 領域へ拡張中) |
北海道大学 / 大学院理学研究科 / 物理学専攻
E-mail: amiami@phys.sci.hokudai.ac.jp