光物性研究室

  1. メンバー
  2. 教 授:中原 純一郎  011-706-6929,  jun@phys.sci.hokudai.ac.jp

    助 手:山本 夕可   011-706-6947,  sekika@yama.sci.hokudai.ac.jp

    DC2:篁 耕司.

    DC1:中村 亮介.

    MC2:本山 聡伸, MC2:石墨 淳, MC2:寺岡 幸子, MC2:成田 裕治.

    MC1:仁尾 順一.

     

  3. 研究成果 研究成果をまとめると下記のA,B,Cとなる。
  4. A.半磁性半導体中のMn発光および赤外発光

    B.純粋カルコパイライトの発光

    C.ガラス中色素分子の超高速位相緩和過程と溶質溶媒相互作用

     

    A 半磁性半導体中のMn発光および赤外発光

    半磁性半導体CdMnTe、ZnMnTe、 およびその母体物質の1つであるMnTeに関して、Mn 発光の温度変化、時間変化に現れる異常を詳しく調べた。

    Mnを含む半磁性半導体の多くは2eV付近にMnのd電子多重項間の遷移による発光を示す。この遷移はスピンパリティー禁制であるにもかかわらず強い発光を示し、Mn のd軌道と隣接するTeのp軌道との強い混成を示唆している。そのため、Mnのd軌道も比較的広がっていると考えられ、その取り扱いは単なる配位子場理論で記述される局在系に比べて難しい。近年、配置間相互作用を用いた理論が提唱され、最近光電子分光等の結果を説明するなど、強いp-d相関やMn吸収の大まかなエネルギーが計算されているが、Mnのd電子の詳細な電子状態は依然不明な部分がある。

    我々のCdMnTeに関するこれまでの測定では、90K以上での線幅の飽和や、低温での発光ピークの異常な温度変化、発光ピークの圧力係数の温度変化に現れるカスプ等を観測している。

    今年度はこれまでの研究結果を元に、励起スペクトルの詳細、および発光の時間分解の測定等を行った。まず、Mn発光エネルギーの励起エネルギー依存性を測定し、不均一分布の中の選択励起を行うエネルギー領域と、選択励起を行わないエネルギー領域があることを示し、その境界エネルギーがMn濃度によらないことを示した。また、Mn濃度によって変化するバンドギャップのところに、発光エネルギーの飛びがあることを示した。これはバンドギャップより大きいエネルギーの光で励起した場合には、励起過程においてバンドからMn多重項へのエネルギー移動が重要であることを表している。また、Mn発光の時間シフトの測定からは、その励起エネルギー依存性が明らかになった。シフトの大きさは非選択励起の領域ではほぼ一定であり、選択励起の領域では若干小さかった。またバンド間遷移に対応するエネルギーでの飛びは時間分解測定においても再現された。この振舞いからは、Mn発光の時間シフトは不均一分布の中のエネルギー移動ではなく、Mnの多重項エネルギー自身の変化を示しているように見える。ところが、種々のMn系半磁性半導体において同様の実験を行ってみると、不均一分布の大きいものほど、シフト量が大きいという結果が得られた。この結果はむしろエネルギー移動を支持し、結論はまだ出ていない。また、CdMnTeに見られるMn発光と赤外発光の励起スペクトルを測定し、その温度変化の様子から、電子ホールペアやMnの励起状態から赤外発光へのエネルギーの移動の詳細を調べた。その結果、バンドギャップエネルギーがMnの遷移エネルギーよりも小さくなるようなMn濃度をもつ試料においては、赤外発光がむしろバンド間吸収によって効率的に励起されることを示した。これは以前我々が行った、高濃度試料における時間分解の結果からの仮説を裏付けるものとなった。また同時に、高濃度試料におけるバンド間吸収によるMn発光の励起に関しても具体的な実験的証拠を与えた。Mn発光エネルギーの温度変化を測定すると、60K付近に極小を持つことが知られている。この振舞いは最近Biernackiらによって理論的に説明された。Mn発光エネルギーの温度変化には結晶場の強さDqとラカー係数B,Cが関与しており、低温ではどちらも負の温度係数を持つが、高温で前者は負の温度係数を持ち、後者は正の温度係数をもつ。後者の影響が相対的に大きい場合には発光エネルギーの温度変化には極小が現れる。我々はMnTeおよび、Teの一部をMnで置換したMnTeSbを用いてMn発光の温度変化を測定した。その結果、発光ピークはMnTeでは極小をもち、MnTeSbでは100Kまで極小を持たなかった。この結果は以下のように説明することができる。TeをSbで置換すると、価数の違いにより陰イオンにホールができる。このホールを埋めるために、Mnのd電子は軌道を広げることになる。これは実効的に結晶場が強くなったことと等価であり、Dqを大きくする結果となる。同時に、ラカーパラメータB,Cはd電子間の相互作用をあらわすパラメータであり、d電子の軌道が広がることによって減少する。したがってSb置換によりDqの効果が強くなりB,Cの効果が弱くなることによって、発光ピークの増加が押さえられることとなる。またバンド状態と局在状態の混成の様子を調べるため、CdMnTe/CdTe量子井戸の試料を用いて発光測定を行った。CdMnTe/CdTeの多重量子井戸および単一量子井戸の試料において、発光スペクトルとMn発光の励起スペクトルを測定したところ、井戸層からのバンド端発光とバリア層からのMn発光を観測した。さらにMn発光の励起スペクトルを測定したところ、バルクの場合とはまったく異なったスペクトルが得られた。これらの原因については、現在検討中である。

     

    B カルコパイライト型結晶中にドープされた希土類金属元素の多重項遷移による発光の測定 カルコパイライト型半導体の中でもCuAlS2は吸収係数が大きい上、3.5eVと大きなバンドギャップを持つため、適当な発光センターを導入することによって、可視光領域をカバーする発光デバイスの母体となりうるために大きく注目されている。また4f不完全殻をもつ希土類金属はブラウン管等に利用されている発光中心であるが、結晶母体との相互作用が小さい上に、発光スペクトルが複雑であるため、詳細な研究例は多くない。我々はカルコパイライト中の希土類元素の基礎データの取得を目的として、発光測定を行った。その結果、発光の微細構造の温度変化、圧力変化を詳細に検討することにより、その一部について発光の同定を行った。また、発光線の数が群論から帰結されるよりも多いことから希土類元素が複数のサイトに導入されていることを明らかにした。

     

    溶液・ガラス中色素分子の超高速位相緩和過程と溶質溶媒相互作用

     液体中に色素分子が溶質として入ると、その光学過程には数十フェムト秒オーダーの超高速位相緩和から、ナノ秒程度よりも遅いエネルギー緩和まで、広範な時間スケールの緩和現象が現れる。最近の分光学的研究から、これらの緩和過程は色素分子の電子状態と周りの液体中のフォノンや様々なゆらぎとの結合によって起こることが明らかにされてきた。特にこの系の光学的位相緩和過程では、溶媒の散逸的性質だけでなくその動的性質も現れる非マルコフ的緩和現象が観測される。この過程を理解することは、光学過程を通して物質中の緩和現象を研究する上で一般性を持つ非常に重要な課題である。しかし、その詳細については実験的にも未解明な点が多い。最近オランダや米国のグループによって液体中の色素分子を対象としたフォトンエコーの実験が行われ、溶質溶媒相互作用にともなう励起状態におけるエネルギーゆらぎの相関関数やフォノンモードの状態密度分布が解析されている。また、米国のグループは溶液中色素分子の発光の時間分解測定と溶媒の低振動数モードとの比較を報告している。しかし、この系の超高速位相緩和に関する実験的研究は現在まで室温におけるものしか報告されておらず、 その機構を明らかにするためには温度変化の詳細な測定が本質的に不可欠である。 さらに、フォトンエコー、吸収、二次光学過程(発光や光散乱)などの異なる光学過程による測定を行い、それらを統一的に理解することも非マルコフ的緩和現象を理解する立場から非常に重要であると考えられる。本研究では、この光学的位相緩和過程の機構を明らかにすることを目的として、フォトンエコーの測定を行い、溶質溶媒相互作用におけるフォノン構造の解析を行った。また、吸収、発光、光散乱スペクトルの測定・解析を行い、フォトンエコーの結果との統一的解析を試みた。

    1)フォトンエコー

     NdYAGレーザーの3倍波を用いて、インコヒーレント光フォトンエコーの測定システムを作成した。インコヒーレント光によるフォトンエコーを測定手段に選んだ理由は、比較的容易に必要な波長領域で高い時間分解能が得られること、さらに、低温下での測定も光学材料による時間分解能の低下(またそれを防ぐための群速度分散の補償)を気にせずに行えること、である。 装置幅約60フェムト秒の時間分解能で測定を行い、時間原点を正確に決定するために2方向にでるエコー信号を同時に検出した。

     液体やガラス中の色素分子(βーカロチン)を対象とし、室温から40Kの温度範囲で実験を行った。その結果、エコー信号は低温でも数十フェムト秒程度の非常に早い応答を示し、この系の超高速位相緩和の様子が、 液体からガラス中までの広い温度範囲で時間軸上で観測された。 実験結果を定量的に解析するために、 フェムト秒オーダーの超高速位相緩和過程を線形電子格子相互作用に基づくダイナミカルモデルで、また、位相緩和よりも遅い時間スケールで起こるエネルギーゆらぎをストカスチックモデルで記述することにより数値計算を行った。発光スペクトルの解析で得られたダイナミカルモデルのパラメーターを用いることによって、おそいエネルギーゆらぎの大きさや相関時間が得られた。 これにより、 液体からガラス状態において、サブピコ秒から数十ピコ秒の相関時間を持つエネルギーゆらぎが存在することを示した。

     今後、時間分解能をさらに向上させた測定を行い、また溶媒依存性の詳細な実験・解析を行い、超高速位相緩和過程を引き起こす溶質溶媒相互作用のダイナミクスの詳細を明らかにしたい。

    2)吸収、発光、光散乱

    液体やガラス中の色素分子(βーカロチン)を対象に発光スペクトルを測定し、その励起波長依存性、 温度変化を詳細に調べた。 測定結果を、位相緩和の原因となる色素分子と周りの液体との相互作用のダイナミクスについて、電子系と線形相互作用をする調和振動子の状態密度分布を仮定し、非マルコフ効果を考慮した理論を用いて解析した。その結果、溶質溶媒相互作用に伴うエネルギーゆらぎの振幅の温度変化が得られた。さらに仮定した状態密度分布の平均フォノンエネルギーとして約30波数が得られた。 これにより、相互作用のダイナミクスを特徴づけるエネルギーゆらぎの振幅と平均フォノンエネルギーの比は5程度となる事が分かった。 このことはこの系におけるエネルギーゆらぎの特性が、位相緩和時間よりもゆらぎの相関時間の方が長い"遅いゆらぎ" の領域にあり、非マルコフ性が顕著であることを示している。 またこれらの結果は、二次光学過程としての発光およびラマン散乱の相対強度の測定結果も定量的に説明できること、さらに、フォトンエコーの測定結果も同じモデルにより統一的に理解されることを明らかにした。

     

  5. 成果発表 http://WWW.phys.hokudai.ac.jp/LABS/hikari.html

<原著論文>

1. J. Nakahara, Y. Narita, K. Itoh, E. Niwa, K. Masumoto and S. Yamamoto

Polarized Photoluminescence with Long Lifetime in AgGaS2

phys. stat. sol. (b)210 (1998) in press.

2. J. Watanabe, R. Nakamura and J. Nakahara

Optical dephasing and electron-phonon interaction in βーcarottine solutions

J. Luminescence 76&77 (1998)604-607

3. R. Nakamura, A.Ishizumi, J. Watanabe and J. Nakahara

Solvent dependence of homogeneous and inhomogeneous broadenings in β- carottine solutions

J. Luminescence 76&77 (1998)571-574

4. T. Kobayashi, T. Ohmae, K. Uchida, and J.Nakahara

Pressure Dependence of Photoluminescence in GsAs/Ordered GaInP Interface

Proc. 10th Intern. Conf. on Indium Phosphide and Related Materials (1998) 389-393

5. J. Watanabe, R. Nakamura and J. Nakahara

Optical dephasing and electron-phonon interaction in β-carottine solutions

J. Luminescence 76/77 (1998)604-607

6. R. Nakamura, A.Ishizumi, J. Watanabe and J. Nakahara

Solvent dependence of Homogeneousand inhomogeneous broadenings inβ-carotine solutions

J. Luminescence 76 & 77(1998) 571-574

7. K. Takamura, S. Yamamoto, J. Watanabe and J. Nakahara

Excitation Spectra in CdMnTe

Inst. Phys. Conf. Ser. 152(1998) 453-456

8. K. Takamura, S. Miyanishi, S. Yamamoto, H. Akinaga and J. Nakahara

Optical Properties in zinc-blende MnTeSb films

Inst. Phys. Conf. 152 (1998)613-616

9. S. Yamamoto, J.D. Park and J. Nakahara

Decay profiles of Mn2+ photoluminescence in CdMnTe Inst. Phys. Conf. 152 (1998)457-460

<会議抄録等>

1. J. Nakahara, K. Takamura and S. Yamamoto

Decay process of photoluminescence in CdMnTe

Proc. 8th Int. Conf. High Pressure Semiconductor Physics (Thessaloniki, Greece)

2. S. Yamamoto and J. Nakahara

   Energy Transfer Between Mn Ions in Semimagnetic Semiconductors

Proc. 8th Int. Conf. High Pressure Semiconductor Physics (Thessaloniki, Greece)

3. J. Nakahara, Y. Narita, K. Itoh, E. Niwa,a K. Masumotoa and S. Yamamoto

Polarized Photoluminescence with Long Life Time in AgGaS2

Proc 8th Int. Conf. on Shallow Level Centers in Semiconductors (Montpellier, France)

 

4.学術講演

<招待講演>

1. J. Nakahara, K. Takamura and S. Yamamoto

Decay Process of Photoluminescence in CdMnTe

8th Int. Conf. High Pressure Semiconductor Physics (Thessaloniki, Greece)

<一般講演>

1. S. Yamamoto and J. Nakahara

Energy Transfer Between Mn Ions in Semimagnetic Semiconductors

8th Int. Conf. High Pressure Semiconductor Physics (Thessaloniki, Greece)

2. J. Nakahara, Y. Narita, K. Itoh, E. Niwa,a K. Masumotoa and S. Yamamoto

Polarized Photoluminescence with Long Life Time in AgGaS2

8th Int. Conf. on Shallow Level Centers in Semiconductors (Montpellier, France)

 

 

  1. 科研費、助成金等の取得状況
  2. 山本夕可 科研費 奨励A (継続) 代表 800千円

    半導体中の希薄不純物スピンによる低温電子散乱とスピンキャリアー相互作用

     

  3. その他