結晶の化学結合に関連する物理量は種々の結晶構造によって異なる値を示す。これらの物理量間の
相互関係を探索し、それを手がかりに固体の化学結合に関係した諸問題の解明を目指すことが大きな
研究テーマ。
現在のテーマ:酸化物高温超伝導体の発現機構と結晶構造の関係
研究成果
銅酸化物高温超伝導体が発見されてから14年経過した。しかし、その超伝導発現機構は依然
として明らかになっていない。 銅酸化物の超伝導はCuO2面において発生することは多くの研究
から明らかになっている。このCuO2面を含む結晶構造の違いによって、発生する超伝導転移温度
の最大値( Tc,max )が異なることが銅酸化物高温超伝導体の一つの特質である. この特徴を重
視して, Tc,maxと結晶構造の相関の探索を行い,得られた相関に基づき銅酸化物高温超伝導体の
発現機構の解明を目指すのが私たちの研究の戦略である.
今までに得られた結果:(1)Tc,maxと結晶構造の相関の探索の結果,これまでにいくつかの
相関を得た。(2)そのうちの一つである次の相関に注目してきた。CuO2面はペロブスカイト型
部分格子の要素を構成している. Tc,maxはこの部分格子の"大きな陽イオン"(Mc)とその配位
Oイオンとの結合距離Mc -O距離と相関する. (3)この相関を説明するため,銅酸化物高温超伝
導体の特定の格子振動が伝導ホールと強い電子格子相互作用をするモデルを提案. このモデルは,
この格子振動が超伝導状態に入ると大きな変化をすることを予測する. アンダードープ領域の銅
酸化物の単結晶試料で観測されている赤外伝導率に異常は上記の問題の格子振動モードの振る舞い
として解釈されることを提案し、その可否を検討してきた。(<原著論文> 1)しかし、この異常
は最近別の効果の結果として説明できることが指摘されている。さらに、当初明らかな相関と見ら
れたTc,maxとMc -O距離の相関もデータの蓄積によって否定されているように見える。
そこで我々は原点に戻り他の相関の探索を行った。RBa2Cu3O7-δ(R: 希土類元素)系で知られて
いるTc,maxとRイオンのイオン半径との相関に注目した。この相関はこの系に限定されていること、
及びイオン半径という非物理量を使っている点に問題がある。そこで、この相関を他の銅酸化物に
も適合するTc,maxとある物理量の相関の反映と考えた。我々はその相関として、Tc,maxとBa-Op
(Op: CuO2面上の酸素) 結合距離の相関を見いだした。この相関は銅酸化物の超伝導発現機構にたい
し拘束条件を与えるものと考えられる。<一般講演>
成果発表
<原著論文>
1. K. Motida, Evidence of strong electron-phonon coupling in optimally doped
Bi2Sr2CaCu2O8,
Physica B 284-288 (2000) 925-926.
学術講演
<一般講演>
1. 大島篤, 持田潔, Baを含む銅酸化物高温超伝導体におけるTcとBa-Op距離の相関について,
日本物理学会, 第55回年次大会, 新潟大学(新潟市), 2000年9月22日― 9月25日.