近年、系の非線形性が本質的な役割を果たすものの一つとして、 ソリトンが注目を浴びているが、 それは厳密に解ける系の場合(可積分系)と 孤立波と呼ばれる非線形波動を与える系(非可積分系)の場合に大別される。 前者の研究は近年数理科学の分野で大きな発展をもたらしたが、 物理的にみてその存在の measure はゼロであり、 後者の存在は殆どすべて空間1次元系の場合に限られ、 且つ格子系では通常連続体近似の下でのみ存在する。
このコロキュウムでは系の非線形性とともにその構造の離散性(格子的構造)が 本質的な役割を果たす非線形系において、 非線形局在モード(intrinsic localized modes)というものが、普遍的な形で 存在することを述べる。 このことは、線形近似の下での格子振動モードの振動数帯の外領域(禁止帯)に 系固有の非線形性により局在モードが発生し得ることを意味する。 不純物による局在モードと異なり、この局在モードは系の任意の場所に存在し得、 また、一般に任意個数存在し得る。可積分系におけるソリトンの場合と異なり、 非線形局在モードは非可積分系における well-defined モードとして、 永いが、有限の寿命を持っている。非線形局在モードは、 また、stationary (immobile) なものと mobile なものに大別出来るが、 少なくとも stationary な局在モードは系の次元性によらず、 その存在は普遍的であろうことを示すことができる。
その発見より十年以上を経過したにもかかわらず、数多くの数値実験、 コンピューターシミュレーション以外に、現実の系でこの非線形局在モードが 実験的に観測されたことを示す例は極めて乏しい。 このコロキュウムでは、その存在を示す具体的な例を紹介する。 先ず、の超伝導層が c-軸方向に結合した Josephson junction の 積み重なりからなる系とみなされる BSCCO 系、 TBCCO 系等における Josephson 効果の I-V特性の場合を述べ、 つぎに、DNA における polymerase enzyme 等がもたらすDNA における flipping state の存在に非線形 局在モードが関与している可能性があることを示す。