北海道大学 / 理学研究科 / 物理学専攻

Division of Physics, Graduate School of Science, Hokkaido University


非平衡統計力学におけるエントロピー最大原理と
レイリー・ベナール対流への適用

北 孝文 氏
(物性理論II研究室)

11月21日(火) 15:00-
大学院講義室(2-211)にて


  膨張する宇宙、星の内部に存在する温度勾配、あるいは地球上における 雲の形成や台風の発生など、自然界は、エネルギーや運動量の流れがある 「非平衡現象」や、様々な「パターン・秩序」に満ちている。 しかし、このような系を扱う一般的手法は、 未だに確立されていない。実際、我々が大学の授業で学ぶ統計力学は、 「孤立系」や「温度一定の系(カノニカル分布)」など、 エネルギーや運動量の流れが存在しない系のみで有効である。また、 非平衡現象を扱う理論である「久保公式」等の「線型応答理論」も、その適用対象は、 非平衡度が無限小の場合に限られている。
  今回の発表では、この非平衡統計力学の確立に向けて、 「エントロピー」に注目した研究の結果を報告する。 基本的な問いは次の2点である。 (1)非平衡系でもエントロピーは定義できるのであろうか? (2)時間変化のない非平衡状態は、平衡状態と同じように、 何らかの「最大・最小原理」で記述できるのであろうか。
  第一の問いに対する答えは「yes」である。 実際、相互作用するボーズ/フェルミ粒子系に対して、Keldyshグリーン関数 に対するDyson方程式から系の時間発展を決める輸送方程式を導き、 非平衡状態における「エントロピー」の表式を平衡統計力学と矛盾のない形で得ることができた。 ちなみに、この輸送方程式は、ボルツマン方程式の強相関系・量子系への一般的な拡張になっている。 第二の問いに関しては、得られた「エントロピー」の表式を用いて、 非平衡定常状態における「エントロピー最大原理」を提唱した。 この原理は、ボルツマンのH定理によって裏打ちされている。 最後に、パターン形成を伴う非平衡定常状態の典型例である 「レイリー-ベナール対流」において、この「エントロピー最大原理」 が実際に成り立っていることを確かめた。