物理学専攻 凝縮系物理学講座 固体物性部門


強誘電体って?


 固体物理学の面白さは、複雑な物質の特性のなかから本質的な現象を見い出して、その機構を物理的に解明していくところにあります。物質はその電気伝導性によって電気を通しやすい順に、金属、半導体、絶縁体に分類されます。絶縁体は伝導性をになう自由電子の寄与がほとんどない物質と言えるでしょう。その代表的物質は、誘電体、特に、その特徴が顕著に現われるのが強誘電体という物質です。第二次世界大戦のころ、通信機の発振子用の結晶探索から米、露、日で多くの新強誘電体が発見されました。特に、ペロブスカイトといわれる構造をもつBaTiO3が有名です。高誘電率を利用したチップ状のコンデンサーは私達のコンピュータなどのハイテク電子機器に多様されています。また、光を曲げたり、スイチングできるので、将来は「光IC」に応用されるでしょう。現在、応用的にもっとも注目されているのは、強誘電体メモリー(FeRAM)といわれるものです。コンピュータ用メモリー(DRAM)は中のコンデンサー部に電荷をためて情報が1(ある)か、0(ない)かを判断しています。DRAM面積の大部分を占めるコンデンサー部を強誘電体で置き換えると、集積度が4倍に、スイッチを切っても内容が消えない高速メモリーが誕生するのです。このため、世界中で研究が進められていますが、問題点は良質の強誘電性薄膜をどうつくるか、薄膜にしたときにどう物性が変わるかという点です。

図:ZnOの結晶構造:ZnOはウルツ鉱型構造(六方晶)で、NaCl型やせん亜鉛鉱型の[1 1 1] 方向を引き伸ばした構造。この方向に、Zn 金属層とO 絶縁層が交互に積み重なっている。対称中心がなく、構造的にはもともと強誘電性を示しても良い。


強誘電性半導体ZnOの発見


 現在のICはシリコン(Si)結晶を基盤にした半導体技術であり、化合物半導体(例えばGaAs)になると、とたんに難しくなります。ところが、先にあげた強誘電体BaTiO3はさらに複雑な結晶です。より簡単な構造をとり、かつ強誘電性を示す物質はないのだろうか?というのが我々の研究のスタート・ポイントです。1996年、良く知られていた化合物半導体、酸化亜鉛(ZnO )にリチウム(Li)をドープすると、強誘電性が現れることを発見したのです。

Liドープの役割はZnのd −電子を無くすることにより、重要な役割をしていたd-p混成の電子状態を変えることになります。特性を調べるとZnOはこれまでの強誘電体のメカニズムとは異なり、世界で初めての「電子性強誘電体」の可能性が大きいことが明らかになってきました。また、この結晶は良質の薄膜を作りやすいため、強誘電薄膜としての応用が期待されます。さらに、長距離力であるダイポール相互作用が主因の強誘電性を、薄膜化(2次元化)したときどうなるか?この新現象の研究にも最適な研究対象です。もちろん、強誘電性半導体という新分野の開拓も興味深いテーマです。


これからの展開


 n型特性の半導体であるZnOは、比抵抗がそのドーパントによって、金属といっても良い10^(ー4)Ω・cmから、絶縁体といえる10^(10)Ω・cmにまで変化し、その変化は14桁にも及ぶ興味深い結晶です。金属的といっても金属光沢は呈さず透明であるため、「透明電極材料」としても研究されています。また、半導体バンド・ギャップがちょうど「青色レーザー」に対応するため、レーザー材料としても注目されています。ドーパントを変えて、p型のZnO探索は阪大のグループにより進められています。p-n接合を作ると、紫外光で発電する「透明太陽電池」が可能になります。居間のベランダや、窓ガラスにおおわれたオフイスビルの窓に貼り付けると発電ができるのです。

しかし最も注目すべきは、ZnOはレーザー光源、太陽電池、透明電極、光をスイチングできる強誘電体であるため、一つの基本材料で未来の「光IC」が可能になるのでは、という期待です。一方、このように多機能であることは、ちょっとした不純物などにより、性質が大きく変化するということを意味し、扱い難い物質です。この状況はゲルマニウムやシリコンの半導体研究の黎明期の様子と良く似ていて興味深く思えますが、基礎研究の進展に期待される課題であります。


References (以下の解説を参考にして下さい)


1. 小野寺:「II-VI族半導体ZnOにおける新たな強誘電相」、

  日本物理学会誌、53 (1998) p. 282

2. 小野寺、佐藤:「酸化亜鉛の強誘電性と次世代電子材料としての可能性」、

  Materials Integration - Electronic Ceramics, 12 (1999 ) p.27.

3. 小野寺:「II-VI族半導体の強誘電性」、固体物理、35 (2000) p. 762


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