辻見裕史のホームページ

このような人相 だそうです。(松井卓也 作)
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目次:


量子常誘電体の物理

量子常誘電体において、その量子常誘電状態を特徴づける空間スケールがあることを光散乱実験から明らかにしました。

強誘電体は、大ざっぱに言えば、双極子・双極子相互作用のため、電気双極子がある方向に揃った状態の物質です。この強誘電体を暖めてゆくと、熱エネルギーが電気双極子をバラバラにするようになります。双極子・双極子相互作用と熱エネルギーがバランスする温度が相転移温度です。相転移温度以下では双極子・双極子相互作用が勝って電気双極子がある方向に揃いますが(強誘電相)、相転移温度以上では熱エネルギーが勝って電気双極子はバラバラな方向を向きます(常誘電相)。普通の強誘電体の相転移の説明は、双極子・双極子相互作用と熱エネルギーだけで済みます。

ところが、低温では、もう一つ、量子効果(不確定性原理)が重要となってきます。この効果は、電気双極子の位置を揺がせる、すなわち電気双極子をバラバラにするように働きます。そして、量子効果が無ければ強誘電体になれる筈だった物質が、量子効果のために強誘電体になれないことが起こり得ます。この様な物質は量子常誘電体と呼ばれています。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)が典型例です。 量子効果がなければ、SrTiO3は約40 Kで強誘電体になると考えられています。ところが、この温度近辺から不確定性原理が顕著になり、結局、0Kまで温度を下げても強誘電体になれません。約40 K以下の状態を、量子効果が顕著であるという意味を込めて、単なる常誘電相とは区別して、特に量子常誘電状態と言います。

さて、問題は、この量子常誘電状態は空間的に一様なのか、不均一なのか。そして、もし不均一であれば、それを特徴づける長さのスケールはあるのかが問題となってきます。 答えを書くと、SrTiO3の量子常誘電状態は空間的に不均一で、それを特徴づける長さのスケールは存在するということになります。光散乱実験で判明したことです。そのうち、図を添えたより詳しい説明をする積もりです。

ところで、SrTiO3は約0.12GPaという僅かな一軸性圧力印可で量子臨界点(強誘電相転移が0 Kで起こる臨界点)に到達し、さらなる加圧で量子強誘電相が出現することが分かっています。しかし、量子臨界領域(圧力、温度に関して量子臨界点の近傍領域)や量子強誘電相の動的構造、そして量子臨界領域と量子常誘電状態(常圧での特異な臨界領域)との間の関連性が全く分かっていません。この関連性を明らかにしている所です。”量子臨界点”というキーワードで検索すると、近年、誘電体に限らず多くの物質(重い電子系、高温超伝導、有機結晶など)で研究が精力的に為されていることが分かります。誘電体を含めた、これらの物質で量子効果を統一的に理解できれば大変面白いことになると考えています。


2015年研究業績

1. Broad Doublet Spectra in the Quantum Paraelectric State of SrTiO3; S. NAKAMURA AND Y. TSUJIMI: Ferroelectrics 485 (2015) 20-26.



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