不整合スピン密度波相の多相構造

 

図1

 以前より、擬一次元有機導体(TMTSF)2Xにおいて、格子と不整合の波数を持つスピン密度波(SDW)相が多相構造を持つことを示唆する実験が報告されている。この多相構造を微視的に明らかにするため、主として1HのNMR測定により調べた。スピン格子緩和率の温度依存は図に示すようにSDW転移温度(TSDW)に鋭いピークを示すとともに低温(以下T*)においても同様に発散的に増大する。この結果は、TSDWとT*の間の温度領域ではピン止めされたSDWの位相の励起であるフェーゾンによる緩和が支配的であるが、T*以下ではこの機構が完全に抑制されると理解される。また、T*に向けての温度依存は(T-T*)のべき乗則で表されることから、T*において磁気的揺らぎをともなう相転移が起こっていることもわかる。また、静磁化率の測定から、その温度依存がT*を境に変化かすることも明らかになっている。これらのことから、低温域では周期的に並んだ位相のキンクに整合SDWの領域が挟まれているディスコメンシュレーション構造の安定化が示唆される。ディスコメンシュレーションに対する具体的な証拠はまだないが、今後高分解能NMR等の測定により明らかにされることが期待される。