スピン密度波のダイナミクス

 (TMTSF)2XのSDW相においては、集団励起モードであるスライディングが観測されるが、 このSDWのダイナミクスを主として電気伝導度測定により調べた。 スライディングモードはしきい電場をともなった非線形電気伝導度として観測されるが、 高温域における振る舞いは電荷密度波(CDW)のそれと極めて似ており、 ピン止めされたSDWが電場により古典的にピン止めをはずすモデルで理解される。 このときしきい電場以上においてSDWが運ぶ余剰伝導度の温度依存を図1に示す。 余剰伝導度は上述のT*付近を境に低温域で急激に減少する。 また図2に示すように、低温域においては高電場で温度に依存しない大きな伝導度が観測される。 これはSDWによる新たな伝導機構を示すものであり、温度に依存しないことから量子力学的起源を示唆している。 この伝導機構は、SDWが低電場で古典的機構でピン止めをはずした後に、高電場で出現することから興味深いものとなっている。 これらことは、T*での相転移がSDWのダイナミクスにも深く関わっていることを示しており、 ディスコメンシュレーション構造とSDWの量子力学的トンネルの関わりが今後明らかにされねばならない。

図2
図1
図3
図2