研究

�C. フラストレート磁性体（編集中）

幾何学的フラストレーション

　幾何学的フラストレーションとは、何らかの理由で磁性体内のスピン間の相互作用が満たされることが妨げられる効果です。 磁気フラストレーションには相互作用の競合により生じるものと、スピンの幾何学的な状況から生じるものの２種類が存在します。 後者を特に”幾何学的フラストレーション”と呼びます。 例えば図のように三角形の各頂点に互いに反強磁性的に相互作用しあっているイジングスピンがある時、すべての相互作用を満たすようなスピン構造が存在しないことが分かります。 その結果、磁気秩序が抑えられ、この効果が幾何学的フラストレーションです。。 磁気フラストレーションが働くと、古典的な磁気秩序状態（共線的な磁気秩序状態）の形成が抑えられ、 絶対零度でもスピンが揺らぎ続ける”スピン液体”が実現すると理論的に予想されています。 しかし、その実験的観測、性質の解明は未だ残された課題となっています。

1) 三角格子反強磁性体

　三角格子(triangular lattice)は左図の左上のように、三角形が辺共有した格子です。 三角格子は1973年にP. W. Anderson先生によりResonating Valence Bond (RVB) 状態が実現すると予想されてから精力的に研究されてきました。 最近の理論的研究では、左図の右上のような120°構造が基底状態なのではないかという結果が得られているみたいですが、 多体相互作用、ランダムネス等の効果によって秩序が簡単に乱されるみたいで、まだまだ面白い磁性が見られそうです。

2) カゴメ格子反強磁性体

　カゴメ格子(kagome lattice)は左図の左上のように、三角形が頂点共有した格子です。カゴメ格子は２次元フラストレート磁性体において最も強い幾何学的フラストレーションを持っています。 そのためとても面白いのですが、モデル物質が少ないのが問題です。 我々の研究室では今までに左図の下に示してある２つの新しいカゴメ格子反強磁性体のモデル物質 CaCu3(OH)6Cl2・0.6H2O と Li2Cr3SbO8 の合成に成功し、その磁性に関して研究しています。

3)パイロクロア反強磁性体

　パイロクロア格子は左図のように四面体が頂点共有した格子です。 スピン液体、磁気モノポール、スピンアイス等様々な面白い現象が観測されています。 また、電気伝導のあるものや、超伝導になるものも多く、非常に面白いです。 今のところはまだパイロクロアは研究していませんが、今後いつか研究出来たらいいなと思っています。

4) リーブ(lieb)格子

　リーブ格子(lieb lattice)格子は左図のような格子です。 通常はフェリ磁性が現れるのですが、第二近接相互作用が入ると何か面白いことが起こると予想されています。 また、金属ではフラットバンドが出ると予想されています。 我々の研究室では磁性イオンがリーブ格子を形成する量子スピン系K2Li2V6O14を新たに発見しました。 ただ、磁性がリーブ格子をどこまで反映しているのかをしっかりと調べる必要があります。 まだまだ先行研究の少ない格子で、これからの発展が楽しみです。

5) ３次元ハニカム格子

　左図は我々の研究室で初めて単結晶の合成に成功し、その詳細な磁性を調べているCs3Fe2Cl9です。 結晶構造はFeがダイマーを組み、そのダイマーが三角格子を形成しているという、面白そうな構造です。 しかし磁性はダイマーを反映していません。 ダイマー内の相互作用がフェロで三次元的に繋がったハニカム格子です。 低温での温度に比例する磁化、３回ものメタ磁性転移、1/2磁化プラトー等の興味深い磁性を示しています。 何より、結晶がきれいです。